◆鮮烈のデビューから控えに。そして一筋の光明

久保建英は徐々にヘタフェCFの第一線から外れていった。それどころか、通りすがりの端役にまで追いやられた。入団直後、チーム練習すらせず、スタメンに抜擢された日本人選手は、先発出場を4度続けたものの、以降、ホセ・ボルダラス監督のチームキックオフからピッチに立つことはなくなった。

タケはヘタフェに加入するやいなや、センセーションを巻き起こした。一緒に練習ができず、チームメートと知り合う間もなく出場したエルチェ戦では、スペイン首都南部にあるクラブファン全てに期待に抱かせる好印象を残した。そのドリブル、シュートテクニックに秀でたプレーにより、ヘタフェの勝利に貢献したが、その後の試合で同じ久保建英の姿を見ることはできなかった。やがてスタメンンの座はニヨンに取って代わられ、タケはベンチに。それからの試合では途中出場で僅かな時間をプレーしただけだ。

傑出した働きを示すまでには至らずとも、ボルダラス監督は数試合の間をあけて、再びエルチェ戦でクボをスタメンに戻す。その頃には、もう誰1人先発を予想する者はいなかった。だが、しばらくイレギュラープレーを見せていたにも関わらず、その日の彼は輝いて見せた。エネス・ウナルの同点弾をアシストをしただけでなく、シュートチャンスに繋がるラストパスも3回送った。敵のミスを誘発し、エリア内で倒されながら、PKを審判に認められなかった件については、ボルダラス監督はこう分析している。

「ちょっと前にも言ったのだが、割を喰ったと感じる者は文句を言う。先日もマクシモビッチへの明白なPKがあったし、バジャドリー戦でもそうだ。セビージャ戦など、明らかなペナルティが2回もありながら、まったく取ってもらえなかった。タケへのプレーもPKになって良かったはずだが、ジャッジをするのは主審だし、VARから違うと言われたのだろう。全てにおいて少々、矛盾があるようだが、ヘタフェは判定に恵まれていない」

◆代表戦による日本往復で生じた疑念

今週末、タケがスタメンリピートできるかどうかは、まだ予想が立たない。ボルダラス監督によると、土曜のオサスナ戦2日前の時点でも何人かの各国代表選手がまだ帰還しておらず、クボもその1人だという。金曜には練習に戻ったが、たった1回のセッションをしただけでチームとパンプローナに移動することになる。それが若き日本人アタッカーにとってハンディキャップとなるのは間違いないところだ。

「戻って来た選手とまだの選手がいる。エネス・ウナルはケガをしてきたし、マクシモビッチは今日戻る予定だったのに着かなかった。何がどうなっているのかわからず、土曜の試合に使えるのかも不明だが、彼を信じているよ」と、試合前記者会見で語るボルダラス監督の表情には悲愴感すら、漂っていた。

久保建英を取り巻く状況はいまだに五里霧中とはいえ、3週間前よりは大幅に改善している。スタメンへの復帰、残留の直接ライバルであるエルチェとの試合における特筆すべき活躍、そしてU-24日本代表戦でアルゼンチン相手に見せた2つのアシスト。彼がこれをキッカケに一皮剥けるのか、今季はずっとそうだったようにアップダウンを繰り返すのか、まさに今が問われる時と言っていいだろう。まずはリーガ再開1試合目としてオサスナ戦が迫っている。エルチェ戦に続き、ヘタフェと久保建英が2部降格回避の闘いにこれからも明け暮れるのか、とうとう安全圏に到達できるのか、他チームの結果にも左右されるが、残り10試合の行く末を占う重大な一戦だ。

◆不確かな未来

エルチェ戦でのいい働きは評価されているものの、レアル・マドリーではこの日本人選手に尚一層のコンスタントな活躍を期待している。事実、シーズン前半にいたビジャレアルにおいても、ヘタフェにおいてもレアル・マドリー上層部の目的は、レンタル移籍によって、プレー時間を獲得することだった。クボにはチームのカギとなるような重要な選手になってもらいたい。そう願っているマドリーは、彼に改善の余地がまだ大幅にあると思っている。それだけに現在の不安定さがこれからも続くならば、来季も再びレンタル移籍で修練を積むというのが論理的な帰結となるだろう。好ましいのはラ・リーガ、ヘタフェで再チャレンジというのが、フロレンティーノ・ペレス会長のクラブにとって、最善の選択にならないとは誰にも言えない

クボの未来はヘタフェとのそれともリンクしている。最終的にボルダラス監督が今季限りでチームを去る可能性もあるからだ。来季の新プロジェクトでも彼が続投となれば、クボにとっても、コリセウム・アルフォンソ・ペレスは更なる成長を遂げるのにもってこいの場所となるだろう。その逆の場合、赴任する新監督が、マドリーのフロントにクボの再レンタルを依頼するべきかどうか、決めることになる。

記者紹介
文:フアンカル・ナバセラダ
1992年まれのマドリッドのヘタフェ市出身。20才から、スペイン紙『マルカ』で働き、ヘタフェを担当。並行してスペインで唯一、ヘタフェのチーム情報を発信するラジオ、“オラ・アスローナ"を立ち上げ、8年間、放送を続けている。

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(出典 news.nicovideo.jp)