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抜群のスピードゴール前の迫力を武器に北海道コンサドーレ札幌の絶対的点取屋に君臨していた鈴木武蔵。26歳になった彼に長年の念願だった海外移籍のオファーが舞い込んだ。新天地はベルギー1部・ベールスホットVA。前身・ベールスホットACが2013年に破産し4部降格を強いられた後、新体制で再建され、7年がかりで今季ようやく1部に辿り着いたクラブだ。紆余曲折の軌跡はまさに彼自身のキャリアを投影していると言っていい。

ジャマイカ人の父と日本人の母を持つ鈴木武蔵は1994年に生まれ、幼少期はジャマイカで過ごした。その後、母の故郷である群馬県太田市に移り住み、サッカーを始めたが、少年時代は目立つ選手ではなく、技術的にもあまりで高いとは言い切れなかったという。

運命が大きく変わったのは、2009年に入学した桐生第一高校時代。中町公祐(前横浜F・マリノス)や細貝萌(ブリーラム・ユナイテッド)ら数々のJリーガーを育てた小林勉監督(現桐生大学附属中学校)の指導の下、メキメキと頭角を現したのだ。高2だった2010年にはU-16日本代表に初抜擢。ちょうど10年前の8月に行われた豊田国際ユース大会に出場した鈴木武蔵は異彩を放っていた。「子供の頃からティエリ・アンリ(現モントリオール・インパクト監督)が好きだった」と本人は話したが、まさにアンリそこにいるような錯覚を覚えた人もいたのではないだろうか。

武蔵を初めて見たのは、2010年春の関東U-16リーグ。「直前のフランス・モンタギュー国際大会でイングランドクロアチアに完敗し、外国人慣れさせないといけないと実感した直後だったんで、日本人離れした風貌と爆発的スピードを持つ武蔵は僕らにとってインパクトが非常に大きかったんで、豊田に呼びました。植田直通(セルクル・ブルージュ)と一緒で基本技術には難があったけど、ボールのもらい方や止め方を1から100まで教えて育てました。彼も本当に純粋で、貪欲に取り組んでくれました」と当時のU-16日本代表コーチを務めていた菊原志郎氏(現広州富力ヘッド・オブ・ユースアカデミーコーチング)も述懐する。非凡なポテンシャルは誰もが認めるところだった。

だが、2012年に高校を卒業してアルビレックス新潟入りしてからは、なかなか結果を出せなかった。新潟での最初の3年半はJ1の合計得点がわずか6。2015年後半戦は水戸ホーリーホック2017年後半戦も松本山雅FCレンタルで出されたが、J2の舞台でも活躍は叶わなかった。当時、松本を率いていた反町康治監督も「武蔵はボールが収まらないし、決定的なところで決められない」と嘆き、試合終盤にジョーカー的に送り出すくらいしか起用しなかった。2016年リオ・デ・ジャネイロ五輪こそ、久保裕也(FCシンシナティ)の招集断念によって本大会メンバーに繰り上がる形で出場したが、日本の1次リーグ突破の原動力にはなれずじまい。23〜24歳まはで長い長い足踏み期間を余儀なくされたのだ。

そんな彼の大きな飛躍の場になったのが、2018年に移籍したV・ファーレン長崎。高木琢也監督(現大宮アルディージャ)は武蔵の潜在能力の高さに着目し、前線の大黒柱に据えた。大きな期待と信頼を寄せてくれた指揮官に応えるべく、本人もかつてないほど奮起。J1・29試合出場11得点とプロ入り初のシーズン2ケタゴールマークすることに成功する。

この活躍ぶりに注目した札幌が熱烈オファーを出し、2019年にはプロ5チーム目の新天地へと赴く。そこで出会ったのがミハイロ・ペトロヴィッチ監督だった。

ミシャに教わって『動きの部分』をすごく考えるようになりました。興梠(慎三/浦和レッズ)選手や小林悠選手(川崎フロンターレ)みたいに何年も続けて2ケタゴールを取れるFWになるのは簡単じゃないけど、2人は決して背が高いわけじゃないのに、動きのタイミングクロスへの入り方で点を取っている。見ていてすごく勉強になりますし、それがFWにとって一番大事な部分なんだと痛感させられます」と本人もしみじみ語ったが、プレーの幅が広がったことで数字もついてきた。

2019年はJ1・13ゴールYBCルヴァンカップ7点とキャリアハイのシーズンを過ごし、25歳にして日本代表デビューも果たした。そして今季も開幕直後の新型コロナウイルス感染拡大による中断を挟みながらも序盤3戦連続ゴールゲット8月8日清水エスパルス戦でも今季5点目をマークし、出場全試合で得点という凄まじいパフォーマンスを見せていた。

それだけ頭抜けた存在感を示していれば、海外から熱視線を送られるのも当然のこと。ペトロヴィッチ監督も「彼ならさらに成長できる」と快く送り出した。これまでベルギーに赴いたFWは、鈴木隆行(解説者)にしても、久保裕也にしても、コンスタントな活躍はできていないが、鈴木武蔵には爆発的なスピードゴールの嗅覚がある。伊東純也(ゲンク)もそうだが、ハッキリした長所を持つ選手の方が成功しやすい環境なのは確かだ。すでに新シーズンが始まっていて、プレシーズンから参加していない点は多少のハンディキャップだが、明るく社交的でひたむきな彼ならすぐに周囲に溶け込めるはず。期待は高まる一方だ。

コロナの影響で日本代表戦が来年にずれ込んだこともあり、今季はクラブでのプレーに専念できる。ベールスホットで目覚ましい成果を挙げられれば、来春の段階で大迫勇也(ブレーメン)や永井謙佑(FC東京)など他の代表FW陣より高評価を受ける可能性もある。森保一監督に「武蔵をエースにしたい」と思わせるくらいのインパクトを残せれば、2022年カタールワールドカップへの道も開けてくる。遅咲きの怪物FWの行く末が楽しみで仕方がない。

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