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イングランド発コラム】プレミア優勝セレモニーで見せた南野のはにかんだ表情

 リバプールが30年ぶりとなるリーグ優勝を果たした。1970年代から80年代にかけて黄金時代を築き、イングランド最強の名を欲しいままにしながら、英1部リーグが「プレミアリーグ」と名称変更されたのとほぼ同時に優勝から遠ざかっており、まさに悲願の優勝となった。

 ただし、新型コロナウイルスなどという鬱陶しい疫病がパンデミックを起こして無観客試合が続き、優勝トロフィーの授与も空っぽの本拠地アンフィールドで行われた。

 昨季はあのバルセロナとのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第2戦を、アンフィールドで取材した。0-3で負けた第1戦の結果をひっくり返す4-0勝利をつかみ取り、奇跡の決勝進出を果たした試合だ。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、後半頭からの途中出場ながら2点目、3点目を立て続けに奪ったジョルジニオ・ワイナルドゥムがピッチに跪き、頭を抱えて号泣し始めた。あのオランダ代表MFの涙を合図にしたかのように、サポーターも号泣し、咆哮した。そして試合後に、熱狂的なレッズファンの中でも最も過激なサポーターで埋まるあの有名なコップエンドの前で、選手団とコーチ陣が列を作って肩を組み、「You’ll Never Walk Alone」を観客とともに合唱した。

 あの雰囲気を知っているだけに、誰もいないアンフィールドで優勝トロフィーの授与式が行われるのを、本当に無念の思いで見つめていた。

 そんなやるせない気持ちでテレビ画面を見つめていると、今季10試合のリーグ戦に出場して「5試合以上」の規定を越えた南野拓実が、列の終わりのほうに固まっていた控え選手団に混じって、はにかんだ表情で優勝メダルをもらっていた。

 周知の通り、南野は今季の折り返し地点となる1月にリバプールへ加入した。チームは1ポイント差で優勝を逃した2018-19シーズンの勝ち点「97」での2位の悔しさをバネに、開幕から無敗で勝ち進み、鬼神の強さを見せ続けていた。選手は精神的にも肉体的にもピークを維持することに集中し、勝ち点を積み重ねることにしか興味がないようだった。

 結局そんな張り詰めた集団にポンと放り込まれて、南野は今季ノーゴール、ノーアシストと点に絡めずに終わり、その無念さは優勝メダルをもらった時の表情にはっきりと表れていた。

 韓国メディアの中には、あの時の南野を見て「居心地が悪そうだった」と書いたものもあったようだが、同じ日本男子としては、南野の気持ちは痛いほど分かる。

 新型コロナウイルスのおかげで、選手に直接取材をする機会がなくなり、南野の肉声を伝えることはできないが、話を聞けていればきっと「優勝に全く貢献できなかった僕がメダルをもらうのは申し訳ない」と語ったことだろう。

クロップも明言「このチームであの3人の域に達するには、誰だって時間がかかる」

 昨秋、オーストリアザルツブルクにいた南野は、CLでリバプールと直接対決を果たし、アンフィールドで1ゴール1アシストを記録。思わぬ接戦に持ち込まれて肝を冷やしレッズサポーターに、鮮烈な印象を残した。あの時の鋭く危険なイメージそのままに鳴り物入りで加入しただけに、1月の途中加入とはいえゴールに絡めなかったのは、日本代表アタッカーにとっては残念至極だったに違いない。

 しかし、個人的には無観客のアンフィールドで優勝セレモニーをしなければならなかった無念と同じく、南野には今季ゴールに絡めなかった虚しさ、悔しさを来季に晴らしてもらえればいいと思う。

 その思いはユルゲン・クロップも同じだ。

「いや、全くがっかりなんてしていない。このチームに加入してもらったこと自体、大きな要求だ。今のチームは3シーズン一緒に戦ったメンバーで構成されている。特に3トップの3人はお互いのプレーを理解している。このチームであの3人の域に達するには、誰だって時間がかかるものなんだ」

 7月26日に行われたリバプールリーグ最終節はニューカッスルで行われたこともあり、武藤嘉紀の移籍以来、懇意にしている広報官が筆者ともう1人だけ、日本人記者を特別に取材リストに加えてくれた。

 といっても、このクロップの会見は今時の常識となったZOOMWeb会議アプリ)で行われ、その点では現地に来た意味はあまりなかったが、南野が先発したリーグ最終戦を肉眼で見られたのは大きかった。

 この試合、クロップは右からアレックスオックスレイドチェンバレン、ディボック・オリギ、そして南野と控え組の3人を先発起用した。

 後半19分までのプレーだったが、正直、ここまで南野が成長しているとは思わなかった。

 どうせならオリギを左で起用して、南野を得意の中央で使って欲しいと思った。ところが、リバプールウインガーが見せる縦にドリブルで抜ける能力に少々物足りない印象がある日本代表アタッカーにとって、見せ場が作りづらいと思った左サイドで、ライン間のスペースを上手く使い、ワンタッチパスを多用して流れを作り、しっかりと存在感を示した。

 しかもリバプールのアタッカーらしく、豊富な運動量で再三中央に切り込み、ゴール前に侵入した。

 またフィジカルな展開に持ち込もうとするニューカッスルに対しても当たりの弱さを見せず、プレースピードで凌駕して、わずか半年間でプレミア戦士として十分通用する選手になっていた。

同年代の3人、3年間を過ごし評価額は揃って1億ポンド超え

 さらには前半29分と同アディショナルタイム2分に、南野はボックスの外から相手DFの虚をつくかのように右足を鋭く振って、オンターゲットシュートを2本打った。

 特に1本目のミドルは「よし決まった」と思わせる素晴らしいシュートだったが、相手GKのスーパーセーブで惜しくも今季初ゴールは夢と消えた。けれども、どこからでも隙があればゴールが狙えるシュートセンスを南野が見せて、その才能の輪郭を明らかにした。これでもう試用期間は終わった。チームにもしっかり溶け込んでいる。そんな印象を与えたプレーだった。

 ところが、だ。後半19分にクロップが控えの3トップに代えて、レギュラー3人を同時に送り込むと、あの3人とこの日先発した控え3人との間には、到底埋まらない圧倒的な差があることに愕然とした。

 モハメド・サラーロベルト・フィルミーノサディオ・マネの3トップのどこが凄いかという話は、それだけで一つのコラムとなってしまうので、ここでは割愛させていただくが、この試合で筆者の目の前で繰り広げられたあの3人の圧倒的なパワースピード、決定力からすると「今のチームは3シーズン一緒に戦ったメンバーで構成されている。特に3トップの3人はお互いのプレーを理解している」とだけ語ったクロップコメントは、あまりにも控えめだ。

 この3人は過去3シーズンを一緒に戦い、CL決勝敗退、翌年のプレミア勝ち点「1」差の2位、そして準決勝での奇跡の逆転劇を経て欧州を制し、さらには今季、リバプールを30年ぶりにイングランド王者に導く原動力となった。

 修羅場も栄光もともにくぐり抜けてきた3人だ。そして奇しくも同年代の3人が一緒になったのが、24歳の時。そこからサッカー選手として成長期から全盛期に向かう貴重な3年間を、激しい試合の連続の中でともに過ごした。

 しかもチームを率いるのが、卓越したカリスマ性を持ち、必殺戦術カウンタープレスを駆使するクロップ監督である。闘将と呼ぶにふさわしいアクションで熱狂的なリバプールサポーターも鼓舞し、一丸とし、現場、経営、サポーターを一枚岩にする状況を生み出して、選手が常に全力を尽くさなければならない環境も作った。

 こうして1人の才気溢れる監督の下、リバプールというクラブそのものの成長とともに揉まれ、3年前には3000万~4000万ポンド(約42億円~56億円)級の選手だった3人が、現在は揃って1億ポンド(約139億円)を超える存在になった。

チームで南野が定位置を掴むためには、天才的な“偽9番”を越えなければいけない

 今ではクリスティアーノ・ロナウドリオネル・メッシと争う、れっきとしたバロンドール候補だ。南野はこの偉大な3トップの控え選手として、リバプールに加入した。

 それはクロップの「このチームに加入してもらったこと自体、大きな要求だ」という言質からも明らかだし、無論のこと南野本人にもしっかりと伝わっているはずだ。

 そこで南野が誰の後継者なのか考えてみる。今のところクロップは明言を避けているが、プレースタイル、適正からしフィルミーノの位置だと見るのが妥当だろう。

 ということは、日本代表アタッカーがリバプール定位置をつかむためには、あの天才的なブラジル人の“偽9番”を追い越さなければならない。

 無論、南野にはその素質がある。フィルミーノを抜く可能性が全くない選手を補強するほど、クロップはお人好しではない。ただし、ドイツ人闘将が何度も口を酸っぱくして言うように、それには時間がかかる。

 問題は南野に、どれだけの時間が必要かということだ。

 もちろん、フットボールの世界は明日何が起こっても不思議ではない。不慮の怪我や突然の移籍。しかし過去3シーズンを振り返ってみても、あの3人にそうしたことが起こるとは考えづらい。

 フィルミーノは3人のうち若干年上で、今年の10月2日で29歳になる。しかし最近ではトレーニングの近代化が進み、食事を含めた日常生活の管理も厳格で、選手が30歳を境にして急激に衰えるということはなくなった。29歳はまだまだ絶頂期のど真ん中。今季に続いて、来季もフィルミーノリバプールの3トップの一角として絶対的な存在でいることは疑いようがない。

 その間、南野はCL、国内カップ戦、また過密日程期でのローテーション起用で確実に自分の存在感を示さなければならない。技術面の成長はもちろんだが、この間、チームメートとの人間関係もしっかりと構築しなければならない。

 結局はここが最大の難関だろう。同年代で3年間厳しい戦いを勝ち抜き、ともに世界のトップレベルに立った3選手の域に達することだけでも至難の業なのに、新しい国で、しかもまだおぼつかない英語を使って、人間関係でもあの3人に並ばなければならないのだ。南野が“フィルミーノの代役”として、サラーとマネから同等の信頼を勝ち取るにはどれだけのプレーと時間が必要だろうか。

クロップは頭の中で、世代交代のイメージをしっかりと描いている

 ただしフィルミーノとはいえ、その選手生命が永遠に続くことはない。どこであのブラジル人が下降線を迎えるのか、それは断言できない。しかし、3歳年下の南野がリバプールで鍛えられ、選手としてしっかりと上昇気流に乗れば、いずれはフィルミーノと入れ替わるのが必然であり、クロップは頭の中でその世代交代のイメージをしっかりと描いているはずだ。

 だからこそ、現在の絶妙なバランスを誇るチームを壊すような補強はしない。クロップは今夏もスーパースター補強は「ない」と答える一方、トレントアレクサンダー=アーノルドに続けとばかりに、19歳DFネコ・ウィリアムズや同じく19歳のMFカーティス・ジョーンズ、さらには17歳FWハーヴェイエリオットなどの10代選手をユースから引き上げ、トップチームでも積極的に起用し、南野以降のもっと遠い将来まで見据えている。

 筆者はそんなクロップの忍耐力と謙虚さを土台とした長期的な展望のなか、南野の最初のチャンスは早くても再来年だと考える。それも南野が来季を通じて、控えとして与えられたチャンスをしっかりとものにし、着実にイングランドで通用する力を蓄えることが条件だ。

 南野も当然、そんなことは自覚している。

「今のチームはできてしまっているし、その中で出られないことを、別にしようがないというわけじゃないけど、それは覚悟で来たんで、はい。そんな中で今日みたいな試合で、どれだけチャンスをつかめるのかだと思っています」

 これは1月23日のウォルバーハンプトン戦後のコメントだ。前半32分にマネが負傷退場すると、クロップはすかさず南野を投入した。試合は1-1の状態が続き、後半39分にフィルミーノの決勝ゴールで勝ち越した。これはそんなギリギリの試合を戦った直後の言葉であり、非常に感銘を受けた。

 南野は焦っていない。どんなチームに入ってきたのかということも正確に把握し、自分がポンとレギュラーになるという幻想も抱いていない。

 今後はただただ謙虚に、忍耐強く、世界のトップクラスのアタッカーと将来のレギュラーポジションをかけて競り合う毎日を重ねていくだけだ。

 我々はそんなふうに最高峰に挑む日本代表アタッカーを、本人に負けないくらいの忍耐力と謙虚さを持って、しかも大いなる期待は失わずに見守るしかない。そして近い将来、クロップが引き抜いた決断が正しかったと証明されると同時に、我々日本人サッカーファンエールが後押しして、上昇気流に乗った南野が今の3トップを追い越す存在となり、欧州最強にしてイングランド最強にも返り咲いたリバプールの主軸となる日が来るのを、信じて待つのみである。(森 昌利 / Masatoshi Mori)

MF南野拓実は強力3トップの間に食い込んでいけるのだろうか【写真:AP Getty Images】


(出典 news.nicovideo.jp)