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フランクフルト鍼灸師・黒川孝一の視点|第1回】日本人と海外選手のフィジカルの差

 日本人選手はフィジカルが弱い――。そんな話をよく聞く。

 では実際に、世界レベルサッカーで求められるフィジカルとはなんなのか。なぜ、そのフィジカルが必要なのか。フランクフルト2014年から鍼灸師として活躍している黒川孝一氏とのインタビューを通じて見えてきたものを参考に、考察していきたい。

 40歳直前まで、ドイツの下部リーグプレーしていたことがある筆者個人の体験談になるが、下部リーグの試合でも相当のフィジカルコンタクトが要求される。9部や10部リーグにも身長200センチ、体重100キロという大型選手が、普通にどのチームにもいたりする。1対1での競り合いが重要視されるドイツでは距離を取って様子を見て、なんてことは許されないけど、だからと言って単純にぶつかっていったら吹き飛ばされる。

 加えてグラウンドは柔らかく、最初は思うように踏ん張ることもできない。当たるタイミングコース、身体の使い方を身につけないと、下部リーグといえど、プレー機会を勝ち取ることはできない。

 下部でもそうなのだから、トップリーグブンデスリーガともなれば当然要求されるものは高くなるし、フィジカルモンスターのような選手相手にも、技術を発揮し、戦術理解に基づいたプレーを実践できなければならないわけだ。では実際のところ、身体のつくりにおいて日本人選手と海外選手の間に明確な違いはあるのだろうか。そのことを黒川氏に聞いてみたところ、次のように答えてくれた。

「基本的には同じ人間なんで、つくりに関してはそれほどの差というのはないと思うんです。ただ違いとして挙げるとすれば、筋肉量はこちらの選手のほうが基本的に多いと思います。頑丈な選手が多いという印象があります。特にブンデスリーガとか、世界のトップレベルの国でやろうとしている選手に関して共通して言えるのは、身体の頑丈さというのがないとできないということですね。

 やっぱり、試合数も多くなってくると、次の試合までの短い時間にどれだけ回復することができるかという回復力も関わってくる。過密日程でも走り続けられる脚力だったり、いいプレーをするための身体の頑丈さ、メンタルの強さが求められる。そしてコンスタントに試合に出られないと、どんどん上のチームにステップアップしていくことはできない。実際にこっちで活躍してステップアップしていく選手は、そうしたものを持ち合わせていると思うんです」

日本人選手がぶつかる壁、ボディコンタクトにおける「スタンダードの違い」

 頑丈さが一つの鍵だという。これまでにブンデスリーガでは、多くの日本人選手がプレーしている。日本だけではなく、世界中の選手から補強リストに上がってくるわけだから、世界トップ3リーグに入るとされるブンデスリーガクラブから獲得されて、契約を勝ち取ったという点で高く評価されるべきなのは間違いない。

 ただ選手にしても、移籍できたらそれで大喜びというわけではないし、誰もがチームの主力となって、さらに上のクラブへステップアップを果たしたいと思ってやってくる。

 そんな彼らがまずぶつかる壁が、ボディコンタクトにおけるスタンダードの違いであることが多い。黒川氏もその点を指摘する。

「どんな日本人選手が来ても、最初は当たりが全く通用しないという状況で苦しむんですね。例えばボルシアMGにいたスタッフに聞くと、大津選手(大津祐樹/横浜F・マリノス)もそうだったようです。来た時はすごくいい選手だという評価をされていましたが、やっぱりボディコンタクトというところで相当苦しんでいたと」

 あるいはフランクフルト鎌田大地も、2017年の移籍当初はそうだった。当時の監督だったニコ・コバチは鎌田の才能を認めていたし、実際に開幕戦ではスタメン起用をしていた。だがテストマッチではまだなんとかなっても、公式戦となれば相手の当たりもまた強くなる。

 ファウルとなるギリギリでぶつかってくる相手から、ボールを守ることができない。どれだけボールコントロール能力があっても、アイデアがあっても、スピードがあっても、俊敏であっても、競り合いごとにあっさりと倒れてしまってはチームとして計算することができなくなってしまう。結局鎌田は最初のシーズントップチームプレーする機会はその後ほとんど訪れなかった。

 鎌田は今季レギュラーとして活躍しているが、ブンデスリーガをはじめとする欧州トップリーグポジションをつかんでいる日本人選手は、皆そうした壁を乗り越えてきているのだ。

 海外でプレーするためにはまずフィジカルコンタクトに慣れることが大事というのは、間違いなく浸透してきていると思われるし、あらかじめ日本にいる間に準備をしてきている選手もたくさんいるだろう。どこまでその差をしっかりと認識しているのか。そこが大事なのかもしれない。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

フランクフルトの攻撃を牽引する鎌田大地【写真:Getty Images】


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