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スペイン発コラム】不測の事態に直面した名門 選手給与カットで職員の給与を保障

 今なお収束することのない新型コロナウイルスは、スペインの名門レアル・マドリードにも短期間で大きな影響を及ぼした。コロナ禍の約2カ月間、レアルはこの不測の事態にどのように対応したのか。

 スペイン政府が3月14日に発令した非常事態宣言により、スペイン全土がロックダウン都市封鎖)され、全国民が一夜にして不要不急の外出を禁止された。この事態はスペインサッカー界にも大きく影響し、リーガ・エスパニョーラスペインサッカー連盟はリーグ戦の無期限停止を発表した。

 ロックダウンの前日13日に、レアルはどのクラブよりも早く、練習場シウダーレアル・マドリードの全施設を閉鎖した。その理由はバスケットボールチームアメリカ人選手トレイ・トンプキンスが、新型コロナウイルスの陽性反応を示したからだ。サッカーバスケットボールの両選手たちが、ジムやレクリエーション室、食堂など、様々な施設を共有しているからである。

 その後、中井卓大が所属する下部組織を含む、サッカーバスケットボールの全チームの活動も無期限停止となり、選手、コーチングスタッフクラブ職員は自宅待機を命じられ、選手たちは自宅での個人トレーニングを余儀なくされた。

 リーグ戦無期限延期の発表当初、経営面が安定しているレアルは、バルセロナアトレティコ・マドリードのような選手の給与カットを実施しない方針であった。しかし長引くロックダウンと、リーグ戦が再開された場合の無観客開催を予測し、予算削減を必要とした。そのためキャプテンのDFセルヒオ・ラモスを筆頭に、サッカーバスケットボールトップチームの選手たちが自主的に給与カットを行うことでクラブと合意。その内容は、リーグ戦再開の場合は10%カット、中止の場合は20%カットというものだった。

 2018-19シーズントップチーム給与総額は2億8300万ユーロ(約336億円)。そのため10%カットの場合は2800万ユーロ(約33億円)、20%カットの場合は5600万ユーロ(約66億円)の削減となる。この助けを借り、レアルの根底を支える800名を超えるクラブ職員の給与総額1億1100万ユーロ(約131億円)の満額支払いをクラブは保障した。

 その後、長きに渡るロックダウンが功を奏し始め、スペイン国内の感染者は減少していった。そのためリーガは段階的な練習再開に向けたプロトコルを作成。5月上旬より各チームが約2カ月ぶりに再始動した。レアルの選手たちも新型コロナウイルス検査に全員がパスし、11日よりシウダーレアル・マドリードで練習を再開。そして24日にスペイン政府よりリーグ戦再開の許可が下り、6月半ばより開催される予定となった。

活動停止による“恩恵”、負傷していたアザールとアセンシオが復帰

 MFカゼミーロは自宅待機を続けてきたことについて、「自宅トレーニングは重要だった。コーチングスタッフが与えてくれたことに僕たちはしっかりと取り組み、フィジカル面をきちんとキープして、それをグラウンドで証明している」と語ると、FWヴィニシウス・ジュニオールは「活動を再開し、選手全員で練習を行い、再びこのシャツを着られて嬉しいよ」と喜んだ。一方、DFダニエル・カルバハルは「練習初日はボールコントロールに苦しんだよ。自宅で同じようにトレーニングすることはできないからね」と明かしている。

 2カ月近くの活動停止がネガティブなものであった一方、恩恵を受けた選手もいる。昨年8月にアメリカで行われたアーセナル戦で膝に重傷を負ったMFマルコ・アセンシオと、2月22日のレバンテ戦で右足腓骨の亀裂骨折により離脱したMFエデン・アザールが揃って練習初日から参加できたことは、ジネディーヌ・ジダン監督にとって残りのリーグ戦とUEFAチャンピオンズリーグを戦ううえで、ポジティブニュースになっている。

 アザールが「チームメートと再び一緒に練習できて嬉しいよ。でもリーガ中断から2カ月が経ったので、フィジカル面とボールを使ったトレーニングがもっと必要だ」と笑みを見せると、アセンシオは「この時をずっと待ち望んでいた。上手くフィットしているし、膝の状態もいい」と問題がないことを強調した。

 その一方、母国セルビアに帰国していたFWルカ・ヨビッチが自宅の塀から転落。右足距骨骨折により全治2カ月の重傷を負い、リーグ再開時には間に合わない。しかし今季のパフォーマンスを考慮すると、戦力的にはそこまで痛手にはならないだろう。

 レアルは今季、クラブ史上最高額となる8億2200万ユーロ(約975億円)の収入を見積もっていた。しかし無観客開催が大きく影響し、チケット、放映権、ベルナベウツアーグッズスポンサーなど、約13〜30%にあたる1億〜2億3000万ユーロ(約118億円273億円)の収入減が予想されている。

 このようにレアル新型コロナウイルスの影響を財政面に大きく受けているため、今夏の移籍市場は、3億ユーロ(約354億円)もの莫大な資金を費やした昨夏のようにはいかないだろう。

久保はもう1年、レンタルに出される可能性が高いが…

 得点力不足解消のため、ジダンが以前から切望しているパリ・サンジェルマンPSG)のフランス代表FWキリアンムバッペについては、経済的事情ですでに今夏の獲得を断念したと報じられている。もう1人の候補であるドルトムントノルウェー代表FWアーリング・ブラウト・ハーランドについても、1億2000ユーロ(約142億円)以上の移籍金が必要とされるため、困難を極めることになる。

 レアルはまた、ラモスとDFラファエルヴァランを補うために、RBライプツィヒU-21フランス代表DFダヨ・ウパメカノ、替えのきかないカゼミーロを休ませる存在としてレンヌ所属のU-21フランス代表MFエドゥアルド・カマヴィンガを獲得候補に挙げている。

 その他のポジションは、期限付き移籍中の選手たちでカバーすることになりそうだ。MFマルティン・ウーデゴールレアルソシエダ)とDFアクラフ・ハキミ(ドルトムント)の復帰が濃厚で、それぞれ中盤と右サイドバックを強化する。

 一方、日本代表MF久保建英(マジョルカ)はもう1年、期限付き移籍に出される可能性が非常に高い。その大きな理由はブラジル人選手たちで占められるEU圏外枠にある。そして最近、様々なメディアレアルソシエダやベティスへの期限付き移籍、PSGへの完全移籍の可能性が報じられている。しかし、レアル寄りのスペイン紙「AS」や「マルカ」、マジョルカの地元紙は特に伝えていないため、それらの報道が信用できるものかは分からない。

 レアルリーグ戦再開後、初戦でMF乾貴士を擁するエイバルホームで対戦する。しかし無観客で開催されるため、改修工事中ホームスタジアム、サンティアゴ・ベルナベウを使用せず、Bチームのカスティージャが本拠地にしているシウダーレアル・マドリード併設のアルフレッド・ディ・ステファノ・スタジアムで行うことを検討している。

 ジダン監督率いるメンバーリーガが定めたプロトコルにより、まだ全体練習を実施できていないものの、再開に向けて着々と準備を進めている。レアルの目標は勝ち点2差で首位のバルセロナを逆転することだ。

 ジダン監督は「我々にはまだ11試合残されている。シーズンを力強く、いい形で終えるための準備をするつもりだ。最終的に大事なのは、何かを勝ち取るために全力を尽くすこと。それこそが、このクラブDNAだ」と語る。

 もう間もなく、スペインシーズンが再始動する。(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)

コロナ禍で減収となってしまった来季のレアル・マドリードのチーム構成に注目【写真:Getty Images】


(出典 news.nicovideo.jp)