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フランクフルトに1-5大敗、翌日にコバチ監督が辞任を表明

 ニコ・コバチがバイエルン・ミュンヘンの監督を退くことになった。

 1-5と大敗した2日のブンデスリーガ第10節フランクフルト戦の翌日にクラブ側が発表。会長のウリ・ヘーネス、代表取締役カール=ハインツ・ルンメニゲ、スポーツディレクターのハサン・サリハミジッチ、そしてコバチの4人は、チームの現状について膝を突き合わせて話し合い、その席でコバチから「このタイミングクラブにとって正しい決断だと思う」と辞任の申し入れを行ったそうだ。選手は全く聞いていなかったようで、午前中には普通にトレーニングが行われていたこともあり、一様に驚きの声が上がっていたという。

 とはいえ、予兆がなかったわけではない。いや、ここ最近は「どうした、バイエルン?」ということばかりが起きていた。

 フランクフルト戦では、そのすべての悪い面が出てしまった。一番の要因は間違いなく、前半9分にジェローム・ボアテングがフランクフルトのFWゴンサロ・パシエンシアを倒して一発レッドで退場となったシーンだろう。主審は最初「PK+イエローカード」の判定を下したが、VAR(ビデオアシスタント・レフェリー)判定の結果、ペナルティーエリア手前だったためFKに。ただ、得点機を阻止したということでレッドカードが提示された。

 フランクフルト日本代表MF鎌田大地は、「それが一番(の要因)だと思います。あれがPKで11対11でやるよりも、PKにならなくてレッドカードで退場してくれたほうが、ありがたかった」と語り、アディ・ヒュッター監督も「素晴らしい体験となった。バイエルンにこのように勝利できたのだ。あのレッドカードターニングポイントになった」と振り返った。いくら質の高い選手を揃えるバイエルンとはいえ、残り80分以上も1人少ない状態で試合をするのは簡単なことではない。

 だが、バイエルンが大敗した要因はそれだけではない。スタメンからどうも噛み合わなさを感じさせられた。この日の最終ラインは右からベンジャマン・パバール、ボアテング、ダビド・アラバ、アルフォンソ・デイビスだったが、試合開始から守備ラインがまったく揃わない。高さがバラバラで簡単に裏を取られてしまう。ボアテングが退場したシーンは個人的なミスでもある。だが、チームに漂う不安定感が如実に出てしまった結果でもあった。

長谷部が見た迷走ぶり 「良い時のバイエルンとは雲泥の差があるというか…」

 そして、その後の展開もいただけない。守備が不安定であることを指摘され続け、コバチ自身も「簡単なミスから失点しすぎ」と苦言を呈していたチームが、数的不利の状態で守備に定評があるわけではないフィリペ・コウチーニョとチアゴの2人をセンターハーフに置くのはどうなのだろうか。

 攻撃はいい。もちろん起点を作れる。ボールを運べる。だが、ボールロスト後にいつもそこを狙われて、不利になっていく。

 コバチは試合後の記者会見で、その狙いを「守りに行くと相手に走らせられて、終盤厳しくなると思った。むしろ、2人を残してポゼッション率を高めて試合を進めるというのが重要になると考えた」と明かしていた。狙いとしては悪くない。ただ、それもチームが機能していれば、だ。

 王者としての誇りもあるだろう。守りを固めるわけにはいかないという、外からのプレッシャーもあったのかもしれない。だが、数的有利で真っ向勝負はあまりにリスクが高すぎた。元日本代表MF長谷部誠は、現在のバイエルンについてこのように語っていた。

「僕もすべてを見ているわけじゃないですけど、本当に良い時のバイエルンとは雲泥の差があるというか、やってても見ててもそこは感じる。もちろん、個々の選手のレベルリーグでもトップであるだろうし、ただそれが上手く噛み合わないと。ホント、ここ1、2、3年くらいは上手くいっていない。それを監督を代えたらとか、そういう問題でもない気がしますけど」

 実際にこの日の失点の仕方は、バイエルンファンからすれば残酷すぎるものだったことだろう。特に前半33分の2点目はバス・ドスト、パシエンシア、セバスティアン・ローデ、フィリップ・コスティッチがダイレクトパスの連続で相手を完全に翻弄し、最後はジブリル・ソウが右足でゴール。普段はバイエルンが見せているプレーを、逆にされてしまったのだ。

 立て直すことも、流れを食い止めることもできない。1-4とされた後に、ボランチのハビ・マルティネスを投入するという“大後手”は、コバチの中で思考サイクルが完全に乱れてしまっていることの表れだった。前半37分に単独ドリブルで持ち込み、右足で見事なゴールを決めるなど前線で孤軍奮闘していたロベルト・レバンドフスキは、終盤ついに我慢の限界を超えて怒りを爆発。大きなジェスチャーで叫び声を上げていた。

 試合後、どのようにミスをなくすことができると思っているのかと聞かれたコバチは、「ミスをすぐになくすなんてレシピがあるのか? ボールロストが多い。試合では2タッチではなく1タッチでどんどんプレーをしないと。トラップボールを運ぶ、パス。そこでのミスが多いんだ。そこのベーシックをトレーニングしているが、ブンデスリーガのインテンシティーは別物だ」と答えていた。なぜシンプルプレーをしないんだという憤りもあったことだろう。その気持ちも分かる。

アレスミスをしないはずの選手たちが、初歩的なミスをしている現実

 だが、バイエルンで問題なのは、本来そんなケアレスミスをしないはずの選手たちが、初歩的なミスをしてしまっているという点なのだ。「やるべきサッカー」と「やっているサッカー」と「やりたいサッカー」がクロスしていない。そして判断の基準になるものがないから、コンビネーションも機能しない。守備への切り替えが圧倒的に遅い。

「とてもがっかりしているし、悲しい気持ちでバスに乗るだろう。でも昨シーズンもこうした上手くいかない状況から、立ち上がり、ダブルを獲得したんだ。戦うことを諦めるつもりはない」

 記者会見の最後にコバチが口にした言葉。だが、次のチャンスは訪れなかった。

 コバチは自分の信念に、あまりに正直すぎたのかもしれない。それは立派なことだった。そして昨季2冠を達成したことも過小評価されるべきではない。しかし、欧州でもトップクラスバイエルンというクラブが定める目標と、選手が欲する欲求の間で最適なバランスを見つけ出し、さらに向上させていくことは、やはり至難の業だった。

 コバチの後任として、アシスタントコーチのハンシィ・フリックが暫定監督を務める。ドイツ代表をブラジルワールドカップ優勝に導いた立役者の1人だ。2-0で勝利した6日のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)オリンピアコス戦、そして9日のブンデスリーガ第11節ドルトムントとの大一番の結果、内容いかんではそのまま続投の可能性もあるという。

 一方で首脳陣は、代表戦の中断期を利用して後任監督探しを進める意向を表明しており、元ユベントスのマッシミリアーノ・アッレグリ、元マンチェスター・ユナイテッドジョゼ・モウリーニョの名前もリストアップされている。果たして、迷走するバイエルンをまた一つにまとめ上げることができるのは誰なのだろうか。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

バイエルンはフランクフルトに1-5の大敗【写真:Getty Images】


(出典 news.nicovideo.jp)