(出典 jr-soccer.jp)



チームとして早い時間帯にゴールが1つほしいというのは話し合ってましたし、前半に1点入ってればゲームが非常に楽に進むと考えていました。先制点の場面はクロスが結構上がってて、それが1つの攻撃のチャンスになっていたし、クロスにうまく合わせられるかが重要なポイントだと思っていた。その形で決められてよかったです」

 埼玉スタジアムで行われた2022 FIFAワールドカップ カタールアジア2次予選で、日本代表モンゴルと対戦した。早い時間帯の得点が明暗を分けると見られた一戦で、22分に均衡を破ったのが南野拓実だった。伊東純也のクロスに絶妙のタイミングで飛び出すと、2枚のマークをかわし、打点の高いヘッドで押し込んだ。この先制点がゴールラッシュの狼煙となり、日本は6-0で格下を一蹴。2次予選2連勝を飾り、次戦の地・タジキスタンへと乗り込んだ。

 タジキスタンはここまで日本と並ぶ勝ち点6を確保。日本がモンゴルと対戦した10日は試合がなく、万全の態勢で森保ジャパンを迎え撃とうとしている。さらに、移動を伴う中4日、冨安健洋の負傷離脱、試合会場のは人工芝のピッチと、日本にはいくつもの困難が重なる。そんなチームの中で期待を寄せられているのが、森保体制トップの8点目を挙げた南野だ。

「今はチャンピオンズリーグ(CL)でも自分が楽しんでプレーできてるなって実感しながら試合をやれている。すごくいいメンタル状態でプレーできていると思います」

 彼は今、かつてないほどの充実感を味わいながらピッチに立っている。三浦知良以来となる26年ぶりのアジア予選開幕2戦連発弾も単なる通過点。勢いはまだまだ続きそうだ。

 しかし、この1年間を振り返れば、苦境に陥ったこともあった。最大の壁となったのが1月のアジアカップだ。グループステージから再三ゴールチャンスを迎えながらシュートを外し続けた。年代別代表としてプレーしていた頃から、試合結果や自分自身の出来に関わらず報道陣と笑顔でコミュニケーションを取り続けてきた南野が何日も無言を貫いたほど、メンタル的なダメージは大きかった。決勝戦でようやく1点を挙げたものの、空砲に終わりタイトルを逃した悔しさは、負けず嫌いの男の中に色濃く残ったに違いない。

「FWっていうのはいい時と悪い時がありますよね。でも、あの時よりは成長してるし、体のキレも今の方がいいと思います」と本人は前向きに話す。それだけの手ごたえを今季はCLという大舞台で実感しているはずだ。

 昨シーズンの欧州王者・リヴァプールに挑んだ10月2日のアウェーゲームは圧巻だった。敵地で1ゴール1アシストという結果を残し、敵将のユルゲン・クロップ監督を苦笑させたことで、南野は自身の名前を世界中に知らしめたのだ。それでも彼は、「でも、自分は悔しい気持ちの方が大きかった。あそこで勝ち点3を取ってるのと負けで終わってるのでは全然違うんで」と淡々と言う。1つのことで一喜一憂しない堂々たるメンタリティが今の彼には備わっていると言っていい。

 精神的変化が日本代表での地位確立にもつながっている。アルベルト・ザッケローニ監督時代、19歳で代表候補合宿に呼ばれてからというもの、これまでは岡崎慎司本田圭佑香川真司ら先輩たちを超えられずにもがき続けてきた。だが、森保ジャパン定着から1年が経過し、彼は「新たな代表の得点源」へと変貌しつつある。

 タジキスタン戦でも日本を勝利へと導くゴールを奪う必要がある。森保一監督が1トップに永井謙佑を置くのか、鎌田大地を抜擢するのか。右サイドも伊東を起用し続けるのか、それとも堂安律をスタメンに戻すのかはまだ未知数だ。が、前後左右の顔ぶれがどう変わっても、トップ下の南野だけは不動だろう。南野自身も「誰とでも合わせられる」という自信を抱いている。

「それぞれのよさを生かしながらチームとしてやっていきたいという思いはあります。モンゴル戦では誰が入ってもいろいろな攻撃パターンを見せてゴールすることを証明できたと思うし、それを続けていければいいかなと。右に関しても、(堂安)律や建(=久保建英)と純也君は右利きと左利きって部分でも全然違いますし、どちらもいい部分はある。その変化を生かしながらうまくできればいい」と理想的な関係を構築すべく、南野は積極的に取り組むつもりだ。背番号9の決定力に次戦の行方がかかっているといっても過言ではない。

文=元川悦子

[写真]=Getty Images


(出典 news.nicovideo.jp)