(出典 www.theworldmagazine.jp)



ストップ・ザ・ユヴェントス」。もはやこれ以上、ユーヴェにセリエAの連覇を許すわけにはいかない。インテルはそのために手段を選ばず、ユーヴェの中心選手としてだけでなく、監督としても能力をいかんなく発揮したアントニオ・コンテを指揮官として迎えた。宿敵クラブの息が強く掛かる男を招へいするほど、形振り構わず、あらゆる手を尽くして復権を目指していることが窺える。

◆■最大の“ヒット”は小さな司令塔

 今夏の移籍市場では主役となった。アトレティコ・マドリードとの契約が満了となったウルグアイ代表DFディエゴ・ゴディンを獲得したのを皮切りに、イタリア代表MFニコロ・バレッラを3700万ユーロ(約44億円)で獲得。そして、この夏のハイライトは、コンテが切望したベルギー代表の怪物FWロメル・ルカクの獲得を成功させたことだろう。ユーヴェとの争奪戦を制し、インテル史上最も高い6500万ユーロ(約77億円)に1000ユーロ(約12億円)のボーナスが加わる移籍金が支払われる。さらには、マンチェスター・Uからチリ代表FWアレクシス・サンチェスレンタルで手に入れた。また、忘れてはいけないのがFWマウロ・イカルディの放出だ。その妻で代理人のワンダ・ナラの名も追記しておくべきか。これでインテルとしては、サッカーに集中できる環境が整い、コンテの思い描く陣容が完成された。

 しかし、リーグ戦を4試合、チャンピオンズリーグを1試合終えた今、このニューカマーの名をあげないわけにはいかない。イタリア代表MFステファノ・センシ。サッスオーロからやってきた168センチの小さな司令塔だ。

 移籍形態は500ユーロ(約6億円)の高額レンタルで、2000ユーロ(約23億6000万円)での買い取りオプションが伴う。もはや、オプションの行使は確実だろう。リーグ戦4連勝の最大の功労者がセンシであることは紛れもない事実であるからだ。なにしろ、イタリア紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』の採点では出場した5試合すべてで7点以上の高評価を得ている。

 開幕節のレッチェ戦、第2節のカリアリ戦、第3節のウディネーゼ戦まで3試合連続で「7.5」。苦戦を強いられたチャンピオンズリーググループステージ第1節のスラヴィア・プラハ戦でも孤軍奮闘し、クロスバーを直撃するシュートを放てば、好クロスを供給。さらには、守備でもペナルティエリアへの侵入を絶妙なスライディングで阻止するなど、八面六臂の活躍を見せて「7」の評価を得た。また、ミランとのミラノ・ダービーでも「7」と、数字だけを見ても計り知れない存在感を示し、チームにとっては不可欠な選手となった。

 これほどまでの“ヒット”を移籍前に予想していた人は多くはなかったようだが、センシは早くもインテリスタハートを鷲掴みしている。コンテ監督は入団直後のトレーニングですぐに一目惚れ。そのコンテによって再生されたアントニオ・カンドレーヴァも「これほど優れた選手だとは思っていなかった」とセンシの能力が予想以上のものだったと目を丸くしていた。

◆■アイドルシャビ

 1995年8月5日まれのセンシは、イタリア中部マルケ州北部ウルビーノの出身だ。レオナルドダ・ヴィンチ、ミケランジェロとともに、盛期ルネサンスの3大巨匠の一人、ラッファエッロを輩出した地として知られる。そのウルビーノのコムーネ(市町村)の一つ、ウルバーニアと同名のアマチュアクラブに、2歳年上の兄とともに6歳から所属。12歳の時にはウルバーニアが破綻してしまい、チームメイトとともにエミーリャ・ロマーニャ州のリミニに移ることを強いられた。そして、その3年後の2010年には、ライバル関係にあることから極めてレアケースというチェゼーナの下部組織に移籍。ちょうど、長友佑都FC東京からチェゼーナのトップチームへ移籍した時期と重なる。ここでプリマヴェーラに昇格すると、2013年夏からの2シーズンはサン・マリーノにレンタルの形で移り、レガ・プロ・プリーマ・ディヴィジョーネ(3部リーグに相当)のカテゴリーでプロデビューを果たす。そしてセリエBのチェゼーナへのレンタルバックを経て、21歳の2016年夏、サッスオーロに引き抜かれ、セリエAの舞台でプレーすることを実現させた。

 センシのアイドルは元スペイン代表のシャビだ。彼のプレースタイルを見れば、一目瞭然だろう。「バルセロナプレーしていたときは、いつも試合を見ていたよ。一番好きな選手だ」と語っている。ただ一方で、「特定の選手に影響を受けたわけではない。(アンドレア)ピルロや、いろいろなスター選手の良いところを“盗んで”きたんだ」と良いところ獲りをしてきたことを明かしている。それゆえ、攻撃だけに集中せず、守備の意識も高い。現代サッカーに必要な、攻守に遜色なく力を発揮できる能力が備わったといえるだろう。

 当然、身長のハンデはあるが、ウディネーゼ戦ではヘディングで決勝ゴールとなる先制点をマーク。「みんな自分のことを背が低いって言うだろ。だから、こうやってゴールを決めて答えてやったんだ」。こう言って、してやったりとほくそ笑んだ。わずなかスペースを見つけると一目散に飛び込んでのヘディンシュートは、嗅覚の鋭い点取り屋のようなゴールだった。今シーズンはすでに2得点を記録し、17-18、18-19シーズンの通算得点に早くも並んだ。絶妙なタッチボールコントロールゲームを作るだけでなく、これまで以上にゴールへの意識も高い。自身初となるビッグクラブトップレベルの選手たちとともにプレーすることで、才能が引き出されたのかもしれない。

 10月2日には、子どものころから夢中に追いかけた夢の舞台、カンプ・ノウに足を踏み入れる。バルセロナとの対決だ。ボールポゼッション・スタイルに世界で最も目が肥えたサポーターたちは、この小兵にどのような評価を下すのだろうか。今から楽しみでならないのは、本人だけではないだろう。今度は、世界を驚かす時がやってきた。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

今季インテルに加入し、抜群の存在感を放っているセンシ [写真]=Getty Images


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