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スペイン発コラム】7日ザルツブルク戦の招集外が分岐点に… 22日の期限付き移籍決定までに何が起きたのか

 8月22日、3日後にレアル・マドリードのBチーム、カスティージャでセグンダB(スペイン3部)デビューを控えていた日本代表MF久保建英に大きな転機が訪れた。リーガ・エスパニョーラプリメーラ・ディビシオン(1部)に所属するマジョルカへの、2020年6月30日までの期限付き移籍が発表されたのである。

 6月のカスティージャ入団発表後、日本代表コパ・アメリカ南米選手権)を戦い、トップチームの北米ツアードイツ遠征に参加した久保が、そこで短い出場時間ながらも存在感を発揮し高い評価を得たことで、トップチーム昇格を求める声がスペイン内外で叫ばれた。

 しかし8月7日のザルツブルク戦(1-0)の招集メンバーから外れたことが、久保にとって大きな分岐点となった。同日に行われたアルコルコン戦で、久保はカスティージャでの人生をスタートしたのである。

 4-3-3の右ウイングで先発出場した久保は、トップチームに参加しカスティージャでの練習がほとんどないまま合流したことにより、試合には3-0と勝利したものの連係ミスが目立ち、後半25分にピッチを退いた。

 そうしたなかでもカスティージャのホームスタジアム、アルフレッド・ディ・ステファノで久保のプレーを初めて目の当たりにしたレアルをこよなく愛する観衆は、久保がベンチに下がる際、大きな拍手を送った。トップチームの時と比べてプレーに物足りなさがあったように見えたが、それは皆が久保に光るものを感じていることの表れとも言えた。

 久保はその後もトップチームで練習しつつ、カスティージャの試合に出場する。そして久保にとっての第2戦となった14日のクルトゥラル・レオネサ戦では、初戦と明らかな違いを見せた。試合を通じてプレーに絡み、積極的にゴールを狙っていった。チームは0-3の大敗を喫するも、スペイン紙「マルカ」はフル出場した久保について「チームベストプレーヤーだった」と高く評価した。

カスティージャでのプレーを「マルカ」、「AS」とも絶賛 「特別な選手と示した」

 そしてプレシーズン最終戦となった18日のブルゴス戦(2-3)にもフル出場し、随所に素晴らしいプレーを披露する。1点目の起点となったほか、相手から何度もファウルを受けながらも惜しいシュートを放ち、“危険な存在”であることを改めて証明した。スペイン紙「AS」は試合後、「再び特別な選手であることを示した」と、そのパフォーマンスを大絶賛したのである。

 さらに「AS」紙は、カスティージャで3試合を戦い終えた久保について「彼の入団はカスティージャのクオリティーが飛躍することを意味する。プレーした3試合で最も際立った選手となった。ラウール(・ゴンザレス)に敬意を表し、背番号7をつけることを決断した」と総括し、その存在がチームにとって非常に大きなものであることを強調した。

 途中、バジャドリードへの期限付き移籍報道が出ながらも、カスティージャで着実に試合経験を積んでいった久保が、25日のラス・ロサス戦でセグンダBデビューを果たすのは間違いないと思われていた。しかし22日午前中に突如、マジョルカへの期限付き移籍というニュースが流れ、その日の午後には瞬く間にクラブから正式決定の発表が出された。

 今季7シーズンぶりに1部へ返り咲いたマジョルカは、バジャドリード、レバンテ、エスパニョール、ビジャレアルとともに久保の具体的な移籍先候補として挙げられていた。久保は元日本代表FW大久保嘉人(現・ジュビロ磐田)、同MF家長昭博(現・川崎フロンターレ)に続く、クラブ史上3人目の日本人選手となったのである。

 ここ1カ月以上、注目を浴び続けた久保のマジョルカ移籍はスペインでも大きな話題を呼び、23日に参加した初練習では通常よりも非常に多い報道陣が現地を訪れている。

 しかし、マジョルカのビセンテ・モレーノ監督はこの日の記者会見で、2日後に行われる第2節レアルソシエダ戦よりも久保の契約が注目を集めていることに対して、「我々は日曜日にとても大事な試合を控えているので、レアルソシエダ戦について話さないのは、彼らに敬意を払っていないと思う」と苦言を呈した。

 久保の招集メンバー入りについては「日曜日の試合にいるかは分からないし、今、重要なのはすでにいる選手たちだ」と明確にせず、「素晴らしいパフォーマンスを披露してくれることを願っている。なぜなら、それはマジョルカの利益になるからね」と期待を込めた。

目指すべき模範はカルバハル、L・バスケス、バルベルデ

 カスティージャでプレーさせつつ、自分の手もとで成長を促すことを望んでいたレアルジネディーヌ・ジダン監督だったが、「我々は選手にとってベストなことを望んでいるし、彼はあの決断を下した。彼が成長し続けるため、マジョルカで多くの試合に出場することを願っているよ」と、久保の決断を尊重した。

 レアルの2大レジェンドジダンの示した方向性、ラウール指揮下のカスティージャで戦うことも確かに魅力的だったはずだ。しかし移籍市場の締め切り日が迫るなか、18歳の若者が最終的に選んだ道は別のクラブレアルと同じ1部という土俵に立つことだった。1年間トップリーグで経験を積み、ビッグクラブと対戦することが、久保の飛躍的な成長につながるのは間違いない。

 大きな決断を下した今、久保のやるべきことはただ一つ――マジョルカで大活躍し、この選択が間違っていなかったことを証明することだ。

 そして今後、目指すべき模範はレアルのDFダニエル・カルバハル、FWルーカスバスケス、MFフェデリコ・バルベルデになるだろう。なぜなら、この3選手はカスティージャから外の荒波で揉まれた後、レアルトップチームに上り詰めた選手たちだからだ。

 レアルトップチームとカスティージャでのプレシーズンパフォーマンスを見る限り、コンディションは万全である。そのため、久保がマジョルカの空港に到着した時に語った「今度の日曜日デビューする準備はできている」という言葉どおり、マジョルカでの練習不足はあるものの、レアルソシエダ戦のメンバー入りを果たすかもしれない。そしてマジョルカで武者修行を積んだ先に、レアルトップチーム入りの道が拓ける。(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)

マジョルカへの移籍が決まったMF久保建英【写真:Getty Images】


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