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1年後の2020年東京五輪を目指すU-22世代と川島永嗣(ストラスブール)、岡崎慎司(レスター・シティ)、柴崎岳(ヘタフェ)ら2018年ロシアワールドカップ出場の経験豊富なオーバーエージを組み合わせて戦った今回の2019年コパ・アメリカ(ブラジル)。

日本は17日の初戦・チリ戦(サンパウロ)で0-4の大敗を喫するところからスタート。いきなり暗雲が立ち込めたが、続く20日のウルグアイ戦(ポルトアレグレ)で立て直して2-2のドロー。24日のグループ最終戦・エクアドル戦(ベロオリゾンテ)に勝てば8強入りというところまで巻き返した。

だが、その最終決戦は中島翔哉(アル・ドゥハイル)の先制点を守り切れず、前半のうちに追いつかれ、最後まで突き放せないままタイムアップの笛。結局、初戦の4失点が響いて得失点差でパラグアイを下回り、予選敗退を余儀なくされた。

不完全燃焼に終わった森保ジャパンだが、希望を感じさせた選手は何人かいた。その1人がウルグアイ・エクアドルの2戦でボランチに入り、柴崎のパートナーを務めた板倉滉(フローニンヘン)だろう。今年1月にマンチェスター・シティへの完全移籍が発表され、名門からレンタルされる形で堂安律の同僚になった彼だが、今季オランダ後半戦ではリーグ戦出場ゼロ。コンディションや試合勘の部分が大いに懸念されていた。

「全然試合やれます。もちろん公式戦はなかなかできていないというのはありますけど、実際試合に入ったらそんなの関係ないと思うし、あとはやるだけだなという思いです」

本人は開幕直前に自信を口にしたが、ウルグアイ戦の入りは少し不安定さも垣間見せた。ただ、チリ戦で同ポジションに入った中山雄太(ズウォレ)のようにミスで自滅する方向に行くことはなく、徐々に調子を上げていく。板倉が最終ラインの前に陣取ることで守備の穴を埋め、柴崎がその前でボール出しや攻撃の組み立てに専念するという関係性も確立されていく。ウルグアイ相手に日本が主導権を握る時間帯を作れたのも、両ボランチが安定したことが大きい。

相手のホセ・ヒメネス(アトレティコ・マドリー)も「日本はヌメロ・クアトロ(背番号4)が脅威だった」とコメントしたように、板倉の一挙手一投足がウルグアイに少なからず脅威を与えていたのは確かだ。

「個人的には入りのところでミスを繰り返していたし、ちょっとバタついていた。真ん中の自分がバタついてしまうとボールがうまく回らない。もっと研ぎ澄ませてやらないといけなかったと思います。ただ、徐々にやるべきことがハッキリしてきた。自分がディフェンスの1こ前でバランスを取って、岳君がその1こ前でボールをさばきながら前進していくという役割が明確になってやりやすかった」と板倉自身も90分間で修正を図れたことに自信と手ごたえをつかんだ様子だった。

まずまずのA代表デビュー戦で森保一監督の信頼も勝ち取り、迎えたエクアドル戦。柴崎とのバランスや連携は1試合をこなしたことでより磨きがかかり、息の合ったパス交換やポジショニングが見られるようになった。このいいリズムが開始15分の中島翔哉の先制弾にもつながる。序盤の日本は十分に勝てるだけのパフォーマンスを見せていた。

ところが、1点をリードした後から守備陣にミスが出始める。エクアドルのハイプレスと強硬日程の疲れが重なり、ゴール前でパスカットされて決定機を作られるシーンが続き、バタバタした印象が強くなった。そして前半のうちにCKの流れから失点。後半に入ると相手が高い身体能力をより前面に押し出してきて、オープンな展開になる。板倉と柴崎もその対応に追われ、コンパクトな戦いができなくなってしまう。結果的に日本は勝ちきれず、南米大陸における南米勢初勝利のチャンスも、ホスト国・ブラジルへの挑戦権も失った。チーム全体がいいリズムで戦えていない時、いかにゲームコントロールするのか…。若い板倉には新たな課題が突き付けられたと言っていい。

「岳君がすごい気を使ってポジションを取ってくれたので、やりやすさがありました。あれだけ試合の状況判断だったり、チーム全体のことを考えてくれる選手が1人いると、落ち着きが作れる。そういうところは見習わないといけないと感じましたね」

板倉は2試合ともにプレーした柴崎のすごさ改めて再認識したという。ロシア以降、日本代表の攻守両面のつなぎ役に君臨する先輩ボランチの動きを目の当たりにして、自分が進むべき方向もハッキリしたようだ。それはA代表でのキャリアを踏み出したばかりの彼にとって非常に大きな収穫に違いない。

板倉には柴崎を上回る身体能力と守備力があるだけに、状況判断力やチームマネージメント、攻撃の組み立てと言った柴崎のいい部分を吸収すれば、もっともっとスケールの大きなボランチになれる。その可能性を垣間見せたのは確かだ。彼はボランチだけでなく、センターバックや3バックのDFでもプレーする機会も多いだろう。どの役割を託されてもレベルの高いプレーができれば、森保監督も板倉を起用する回数は間違いなく増えるはず。そういう信頼を寄せてもらえるように、今後は自己研鑽を図らなければならない。

いずれにしても重要なのは新シーズンだ。欧州で出場機会をコンスタントに得られなければ、遠藤航(シント=トロイデン)ら先輩ボランチの牙城は崩せない。そこをしっかりと頭に入れ、1シーズンフル稼働すること。そこに全力を注いでもらいたい。


【元川悦子】長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーサッカーライターとなる。Jリーグ日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
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