「無限の可能性」を信じ、活路を開き続ける長友佑都
キャリアには誰しも「限界」を感じる瞬間があると思う。
いつまでも働き続け、成長し続けることができる。そう言い切るのは難しい。定年や老後への不安がうずまくのは、身体的にも精神的にも「走り続けることはできない」――その思いの裏返しでもある。
トップアスリートにもそんな瞬間が存在する。むしろ、アスリートたちのほうがキャリアを全うし続ける難しさに直面しているのかもしれない。
例えば、引退時の平均年齢が26歳と言われるプロサッカー選手であれば、数年もプレーすれば、ベテランとなりキャリアの終わりが見えてくる厳しい世界なのである。
そんな中、「歳を経るごとに可能性しか感じない」と言い切ったのが、サッカー日本代表の長友佑都だった。今年で33歳。サッカー選手としては「まあまあ、いい歳ですよね。サッカー界ではかなりおっさん」と笑う。
2018年1月、8シーズンを過ごしたセリエAの名門・インテルから、トルコの名門ガラタサライへとプレーの場を移した(昨シーズン完全移籍)長友は、すぐさまレギュラーのポジションを獲得。今季(2018‐2019シーズン)と合わせてチームの連覇に大きく貢献をした。先日には日本代表として歴代3位となる117キャップ目を記録するなど、中心選手としてピッチに立ち続けている。
何よりピッチで「走り続ける」運動量は「おっさん」のそれではない。
果たして、そこにはどんな秘密があるのか? 長友が「アンバサダー兼グローバル本部長」を務める株式会社LIFULLの「LIFULL OPEN SWITCHイベント」後に話を聞いた。
「若い頃より、未来への可能性は強く感じている」
――「無限の可能性」(※イベントを主催したLIFULLが提案する理念が「あらゆる人が、無限の可能性の中から自分の生きたいLIFEを選び、実現できる社会」だった)という言葉は、長友選手のサッカー人生を表しているように思います。ベテランでもその思いは変わらないですか。
長友 選手としての可能性は常に感じています。むしろ、「若い頃より大きくなっているんじゃないか」っていうくらい。体とのバランスは必要なんですけど、気持ちの面ではものすごく感じていますね。
――具体的に可能性を感じられるポイントはどこですか?
長友 やっぱり意識ですね。僕は、人間はだれであっても意識次第で変わることができる、と思っています。だから意識をどこに置くのか、意識を途切れさせないためにどうあるべきか・・・意識って「邪魔してくるもの」がたくさんありますし、またその意識を「分散」させる必要もある。その質を上げていきたいなと常々思っています。
――意識を「邪魔するもの」と「分散」させる必要性とは?
長友 サッカーで言えば、意識すべき目的は「ゴールをする」ことであり、「チームが勝利をする」ことなんですけど、ピッチには敵がいて、ボールがあるわけですよね。その敵やボールに意識を持っていかれてしまうと、そもそも大事な「ゴールをすること」という目的、意識が薄れていくんですね。
いろいろなところにあるカメラで自分を見る
――本来持つべき意識を邪魔するものになる。
長友 はい。そうすると、ピッチ上での判断が変わってきてしまって、プレーの質や精度、あとは走るランニングのコースまで変わってしまうんですよ。だから「ゴールする」という目的地の認識、意識は絶対に途切れさせないようにすることが大事なんですね。
――なるほど。では、意識の「分散」とは。
長友 例えばサッカーにおいて「集中すること」が「(目の前の相手に)意識を集めること」と定義されていたとしたら、それは違うと思うんです。特に僕はDFの選手なので、相手と1対1になることが多い。そこで、相手とボールに集中して意識を持っていかれすぎると、相手はラクなんです。
――対峙する相手に集中してはいけない?
長友 相手としては、DFの裏(背後)を取りたいわけで、DFが自分に対してばかり意識を持っていたとしたら、他の選手を使って裏を取らせてしまえばいい。必ずしも自分で裏を取る必要があるわけじゃない、後ろから走ってくる選手に取らせればいいんです。だから、目の前のことばかりに意識を奪われることは良くない。その点で、分散させる意識というのが大事だと思っている。
――鳥瞰のようなイメージでしょうか。
長友 そうですね。いろんな角度からのカメラで見ている感覚でしょうか。
――ピッチを超えた視点で見てみると、例えばプロジェクトを成功させたいと思ったら、目の前ばかりを意識し続けるのはメリットにもなるけど、デメリットにもなる。
長友 僕はそう感じています。ただ、(目の前のことばかりを見る)集中と情熱は別物です。情熱はものすごく大事なんです。「長友佑都」という人間はそれだけでここまで来たともいえるくらい(笑)。情熱は注ぐんですけど、意識を一点だけに集めると、周囲が見渡せなくなりがちだし、客観性が薄れてくる。だから違うところにカメラを置いておくことが重要ということです。
――情熱を成功に結び付けるためにも「カメラ」が必要。
長友 そういうことですね。
――十数年前の自分が、今のような意識を持てるようになる、つまり年齢を重ねても無限の可能性を感じることができるようになれると思っていましたか。
長友 昔の自分を考えたら、信じられないでしょうね。こんなふうに考えるようになるとは想像もつかなかったと思います。でも、だからできると思うんですよ、誰だって可能性を感じる、広げることはできるって僕は本気で思っているんです。だって、僕でできたんですよ?
――もともと選手としては無名でした。小学生のころは全然走れない選手で、ジュニアユースには不合格にもなって・・・
長友 それ以上は言わなくていいです(笑)。というのは冗談で、人って環境をふくめたいろいろなものから学んで、研ぎ澄まされていくと思うんですね。その感覚は、今の方が強いです。だから自分の過去も含めて、本当に知ってほしいのは、才能は作れる、ということです。
――才能は作れる。
かつての「短所」が世界で生き抜く「長所」となった
長友 さっきの話に繋がっていますが、今、僕は「走力がすごい、運動量がある」と評価してもらえることが多いのですが、振り返るとそれは短所だったわけです。もともとは「運動量ないな」って言われてたくらいですから。これじゃあ戦えない、と気づいたところから誰より走りこんだわけですね。
――駅伝をしたり。
長友 そうそう。そうして気づいて、情熱を持って取り組むことで能力はどんどん上がる。才能は開花していくんですよ。繰り返しになるけど、短所が長所になってるんですよ。むしろそれで、今、生き残ってるわけですよ。誰しもそういう可能性があることを知ってほしい。
――そうですね。
長友 もちろん天才はいます。サッカー界だったらメッシとかC・ロナウドとか・・・いくら努力しても僕は彼らの能力にはたどり着けないと思います。でも、それはほんの1パーセントくらいの人の話で、99パーセントの人は、同じようなレベルの「才能を持った人」だなって思うんです。だから自分の努力次第で変わる。
――年齢に関係はない。実際、サッカー界での基準で言えば長友さんもベテランですからね。
長友 そう思います。
――しかし、そういった思いにたどり着くためには、何が重要だったのでしょう。サッカー以外にも経営者の顔を持っていたり、今回のLIFULLの「アンバサダー兼グローバル本部長」のような仕事をしていたり・・・
長友 そういうサッカー以外のことにも取り組めたのは、ポジティブに働いたと思います。「意識の分散」という話もしましたが、サッカーだけをやっていては見えない視点を知ることができました。サッカーだけをしていたら、ピッチで表現できるものが、サッカーで得た経験だけになってしまいますからね。違うことに挑戦するかしないかでは、表現力がぜんぜん違ってきます。サッカーに活きること、すごく多いんですよ。
――例えばそれは何でしょう。
長友 いろんな人の思いを知れる、ということは大きいでしょうね。数年前、海外のチームメイトの言葉に違和感を覚えたことがあります。強豪クラブなのでチーム内の競争が激しく、試合に出られない選手でした。彼は「(試合に)出られなくても、給料は変わらないからいいんだ」とプライドを捨てきれない様子で言ったんです。もちろんそういう一面もあるのかもしれない。でも(オーナーを経験していた僕は)「それは違う」と思ったんですね。「お前への信頼と期待があって、クラブは大きな金額を払っているんだよ。その思いも知った方がいい」と伝えたのですが、そうした思いは自分が(経営者を)挑戦してみなきゃ、頭で分かっていても言葉にできなかったと思うんです。
――雇う立場の気持ちも分かった。
長友 はい。だから、いろいろな分野に挑戦することによって、多くの人の思いを知られるわけです。雇う側の思い、雇われる側の思い・・・技術とか能力じゃなく思いなんですよ。それを知ることで意識も変わる。それは大きなメリットでしたね。
――年齢関係なく、自分次第で才能は開かれる。それに必要なのは、情熱であり挑戦すること、ですか。
長友 そうですね。それは本当に多くの人に知ってもらいたいです。もちろん、僕ももっといろいろなことに挑戦していきたいですしね。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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