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 リヴァプールに負けず劣らずの「奇跡」を起こして、クラブ史上初となるチャンピオンズリーグ決勝にたどり着いた。準決勝では、アヤックス相手にホームでの初戦を0-1で落とし、第2戦も前半だけで2失点。「残り45分間で3点ビハインド」という窮地に立たされたが、トッテナムはそこから劇的なカムバックを見せ、ルーカス・モウラのハットトリックで歴史に残る逆転勝利を果たしてみせた。

 ただ、これを奇跡という言葉だけで片付けるのは彼らに失礼だ。勝利の裏には、マウリシオ・ポチェッティーノ監督の確かな采配力があった。第1戦では、開始15分で失点後、ヤン・フェルトンゲンの負傷交代があった際に、ポチェッティーノはチームに修正を施している。DFのフェルトンゲンに代えてMFのムサ・シソコを投入し、システムを3バックから4バックに変えたのだ。これで相手に握られていたペースを取り返し、序盤の出来を考えればもっと点差がついていてもおかしくなかったゲームを、最少の点差で乗り切って第2戦を迎えることができた。

 また第2戦でも、ポチェッティーノは後半開始からMFのヴィクター・ワニアマに代えてFWフェルナンド・ジョレンテを投入するベンチワークで戦い方を修正している。ジョレンテが入って前線にボールの収まりどころができたことでスパーズの攻撃は大きく活性化し、それが逆転への起爆剤になったのだ。

 このアヤックス戦に限らず、今季のポチェッティーノは相手や戦況によってシステムや戦い方を柔軟に調整する“修正対応能力”が光っている。また指揮官が信じて送り出した選手たちが、レギュラーかサブかに関わらずしっかりとオーダーに応えて課せられた役割を全うできているのも大きい。たとえばアヤックス戦で殊勲者となったルーカスは負傷離脱していたハリー・ケインの代役だったし、ジョレンテもまた、準々決勝マンチェスター・シティ戦でも交代出場からボスの期待に応え、セットプレーから決勝点となるゴールを挙げている。

 そのシティ戦のファーストレグで負傷して以来欠場していたケインが戻ってくる決勝では、2人ともベンチスタートになるかもしれないが、頼りになる“切り札”の存在とポチェッティーノの“神采配”は、とりわけ一発勝負のファイナルにおいては、トッテナムの大きな武器になりうる。だから万が一、試合が劣勢で進んだり、前半が終わってビハインドを負っていたりとタフな状況に置かれたとしても、スパーズは一発逆転のカードを懐に忍ばせていると思った方がいい。

◆勝敗を分けるポイントは中盤の主導権争い

 とはいえ、今季のプレミア2試合で2敗しているリヴァプール相手に、もし先手を取られるようだと相当に厳しい戦いを強いられることになる。ひとつ注目したいポイントは、中盤の主導権争いだ。ともにハードなプレッシング戦術がトレードマークの両チームだけに、中盤でいかにボールを奪えるか、また相手のプレスをかいくぐって好機につなげられるかが勝利のカギとなる。

 その上で、ポチェッティーノはどんなスタメンを組むだろうか? アタッカー陣は、ケガが癒えたケイン、ソン・フンミン、そしてクリスティアン・エリクセンとデレ・アリの看板カルテットの先発は濃厚だ。システムは4-3-1-2か4-2-3-1だとして、中盤の残り2枠に誰を起用するかで、戦い方が変わってくる。

 ひとつは守備的なタスクをシソコ1人に託し、ハリーウィンクスを起用するやり方。ケインと同じくケガからの復帰が予想されるウィンクスは敵のプレスを回避しながらパスをさばくプレーに長けた選手で、彼が入るとスパーズのポゼッションワークは目に見えて向上する。その場合は真っ向勝負の撃ち合いになる公算が高い。一方で、ウィンクスではなくワニャマやエリックダイアーを先発させてシソコと組ませ、守備の強度を担保する方法もある。そちらの場合は、中盤でのボールの奪い合いが過熱し、より手堅く、激しく、我慢比べのような試合展開になることが予想される。いずれの戦い方にしても、プレッシング合戦の中でどれだけエリクセンやアリをチャンスメークに専念させられるかが重要になってくる。

 幸い、トッテナムはこの決戦を走りきる“足”をしっかり取り戻せているはずだ。新スタジアム建設による緊縮財政から補強ができず、故障離脱者も多く苦しい台所事情の中で戦ってきた今季のスパーズは、ポチェッティーノの巧みなやりくりでCLをここまで勝ち上がってきたものの、プレミアリーグでは終盤戦で失速し、なんとかトップ4フィニッシュのノルマは果たしたが疲労困憊で満身創痍だった。だが、プレミア最終節からおよそ3週間のブレークがあったことで、チームの生命線である走力とハードワークが復活していれば、リヴァプールとのプレッシングゲームは十分互角に戦えるはずである。

◆絶対エースケインが決定力を発揮できるか

 そして、勝利へ向けた最後のひと押しは、やはりこの男にかかっている。スパーズで“仕上げ”の仕事を担う選手は、やはりエースケインを置いて他にいない。対する相手は、今季のPFA年間最優秀選手にしてリヴァプールの守備の大黒柱、フィルジル・ファン・ダイク。正直、彼の牙城を崩すのはかなり難儀だ。今季のプレミア2試合では、いずれもケインファン・ダイクにまったく仕事をさせてもらえず、スパーズは敗れているからだ。ただ、その2試合はいずれもソン・フンミンがベンチスタートだった。ケイン離脱中に彼の穴を埋めて余りある活躍をしてきた頼れる相棒のサポートがあれば、今度こそファン・ダイクが統率するリヴァプール守備陣を崩し切ることも決して不可能ではないだろう。

 ベストメンバーはそろっている。コンディションもおそらく万全だ。クラブ史上初の欧州王座戴冠に向けて、歴史に名を刻むべく、トッテナムは燃えている。

文=寺沢薫

クラブ史上初のCL決勝へと臨むトッテナムはプレミア対決を制することができるか [写真]=Getty Images


(出典 news.nicovideo.jp)