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アーセナルは今夏、スカッドの大刷新を行う予定だ。クラブの今夏の大きな目標は、異常に膨れ上がった選手年俸を抑えることのようだ。

2018-19シーズンを5位で終えたアーセナルは、プレミアリーグ3季連続でトップ4入りを逃した。この結果、5月30日に行われるチェルシーとの大一番、ヨーロッパリーグ決勝戦で勝利しなければ、再びチャンピオンズリーグ(CL)出場を逃すことになる。

もしEL決勝の“ビッグ・ロンドン・ダービー”を落とすことになれば、それは新たな船出を迎えたアーセナルの2018-19シーズンが失敗に終わったということだけでなく、今後数シーズンのプランに大きな影を落とすことになるだろう。というのも、オーナーのスタン・クロエンケが個人資金の投入を拒否しているため、ここ数年のエミレーツ・スタジアムの金銭事情は徐々に厳しくなっているのだ。

◆膨れ上がった選手年俸

クラブの自立経営モデルは、毎シーズンのCL参戦に基づくものだった。

アーセナルの2017-2018シーズンの財務実績予想は、2016-2017シーズンと比較して4000万ポンド(約57億円)の減収とされている。このうち3500万ポンド(約50億円)は、CLに参戦できなかったことが原因だ。同時に選手年俸は18%近くも上昇しており、実数値で2億ポンド(約285億円)から2億3500万ポンド(約334億円)となっている(※なお、この数値にはアーセン・ヴェンゲルとコーチングスタッフへの違約金も含まれている)。

しかし、これらはすべて選手の売却益でカバーされていた。クラブはセオ・ウォルコット、オリヴィエ・ジルー、アレックス・オックスレイド=チェンバレンといった選手たちの莫大な移籍金で賄ってきたのだ。これによって、アーセナルは収入面では落ち込んでいるものの、税抜き収入で7000万ポンド(約99億円)の利益を確保している。

だが今夏、選手の売却益が不足すれば、ガナーズは6000万~7000万ポンドの損失を負うものと予測されている。

事実、アーセナルの懐事情は厳しそうだ。今年1月、バルセロナからデニス・スアレスを期限付き移籍で獲得したが、アーセナルは移籍金を支出することができず、他の候補を断念。結果的にローン移籍が可能なスアレスしか獲得することができなかった。エメリはウインガーの補強を望んでいたと言われているが、クラブの財政事情を考慮して断念することになったというわけだ。

エミレーツとアディダスの新規スポンサー契約による収入で、今夏は余剰資金が見込まれる。しかし、アーセナルがCLに進出できなかった場合、補強予算はたった4500万ポンド(約64億円)ほどになる。

◆選手売却計画

なおこの数値は、選手の売却によって上昇する可能性もある。そしてクラブは、そのためにマーケットで動き回っている。『Goal』の取材では、予算の補填のために多くのトップ選手を売却し、年俸に充てる資金を縮小する予定であることが明らかになった。これによって、年間2億2000万ポンド(約313億円)の予算を立てられる見込みだ。

ユヴェントスに移籍が決まっているアーロン・ラムジーと、引退を表明したペトル・チェフの退団によって、チームは来年度の年俸を抑えられるだろう。そして、契約満了を迎えたダニー・ウェルベックもチームを離れることが発表された。この3選手の退団で、選手年俸だけで月100万ポンド(約1億4000万円)抑えることができるが、アーセナルはさらなる資金削減を行いたい構えだ。取材では、契約延長オプションのついていたステファン・リヒトシュタイナーとも更新を行わない予定であることがわかった。エクトル・ベジェリンが長期離脱中であるにもかかわらず……。

放出選手は上記4人にとどまらない。直近のパフォーマンスで大きく評価を落としたシュコドラン・ムスタフィ、週給18万ポンド(約2600万円)を受け取るヘンリク・ムヒタリアンの売却も進め、さらにカール・ジェンキンソンやモハメド・エルネニーの買い手も見つけようとしている。期限付き移籍を終え、来シーズン合流予定のカラム・チャンバースとダミアン・エミリアーノ・マルティネスの処遇も判断せねばならない。

そして、メスト・エジルだ。チーム最高給である週給35万ポンド(約5000万円)を受け取る背番号10だが、今季は公式戦34試合で6ゴール3アシスト。クラブは給与に見合った活躍ではないと判断しており、売却に踏み切りたい構えのようだ。しかし、選手がアーセナル以外には興味がなくて残留を希望していること、そして高額な給与と30歳という年齢を考慮し、放出が難しいことも理解している。オファーが届けば移籍を成立させる可能性も十分にあるが、現状どのクラブも関心を示していないと見られており、こちらは来季も残ることが濃厚だ。

◆大前提のCL出場権

この大胆な“スカッド刷新計画”は、選手年俸の予算に余裕を持つために設計されたものだが、同時に最大5選手の加入に向けた資金確保のためでもある。クラブは、高齢化が進みバランスが悪いと思われているトップチームへ数人の有望な若手選手を送り込みたいと考えている。すでにイトゥアーノFC所属の17歳のブラジル人、ガブリエル・マルティネリが600万ポンド(約8億6000万円)で加入することが決まっている。

さらにエメリは、左サイドバックとラムジーの代わりとなる中盤の選手、そしてウインガーの補強を熱望している。

アーセナルはリーグ・アンで大ブレイクしたFWニコラ・ペペに熱視線を送っており、すでにスカウトも数度派遣。所属するリールとは1年以上も前から話し合いを行っている。しかし、コートジボワール代表ウインガーは、今季リーグ戦36試合で20ゴール11アシストを記録。市場価値は急上昇し、4000万ポンド以上の移籍金が想定される。これは、ガナーズが支払える金額を上回る可能性もある。

また、直近5シーズンで6人のセンターバックを補強しているアーセナルだが、新たな選手を加えることも考慮している。これは契約が残り2年となったムスタフィの去就に大きく依存することになるが、クラブは売却に成功した場合、新戦力を補強するつもりである。

いずれにせよ、アーセナルの計画は来季のCL出場権獲得が大前提であり、EL決勝で敗れれば大幅な下方修正を強いられることになる。つまり、今後数シーズンのアーセナルの未来は、バクーで行われるEL決勝にかかっているのだ。

取材・文=チャールズ・ワッツ/Charles Watts