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 胸のすくような戦いは見せてはいないが、確実に成績を残す。

 それがUAEで行なわれているアジアカップ2019における日本代表の戦いぶりだ。

圧倒的な強さはないがアジアカップ史上初の5連勝

 準々決勝までの5試合のなかで2得点以上を記録したのは、力の劣るトルクメニスタンとの初戦と、互いにグループリーグ突破を決めたチーム同士の対戦となった3戦目のウズベキスタン戦のみだ。さらに、4試合目となるサウジアラビア戦では不名誉な記録も更新した。攻撃をしている時間を示す指標の一つにボール支配率というものがある。サウジアラビア戦での日本の支配率は、2002年以降全ての試合で最低となる23.7%を記録した。単純に言えば、1試合のうち相手がボールを持つ時間は日本の3倍以上もあったことになる。それでも、最後は日本が1-0で勝ちきった。

 1月24日ベトナム戦にも1-0で勝った日本は、アジアカップで5連勝を飾った歴史上初めてのチームとなった。

 圧倒的な強さは見せないが、しぶとく勝ち上がるチームを率いるのが、森保一監督だ。1993年アディショナルタイムゴールによって、翌年に控えていたアメリカW杯進出を逃した「ドーハの悲劇」を味わったチームで中心選手として活躍していた人物でもある。

 そんな森保のリーダーとしてのマネジメントにはどのような特徴があるのだろうか。

槙野智章が語る“森保流マネジメント

 現在は31歳になるディフェンダーの槙野智章は、18歳のときにU-19日本代表の選手とコーチとして、森保と出会っている。10年以上にわたり監督を知る槙野は、こう語っている。

「選手一人ひとりを観察する力と、マネジメントする力が長けている方です。特に、試合に出ていない選手へのアプローチの仕方が素晴らしい。出場時間の短い選手たちにも積極的にコミュニケーションを図ってくれる方なので」

 アジアカップやW杯のように、事前合宿から数えれば活動期間が1か月に及ぶ大会では、出場時間の長い選手と、そうでない選手とにわかれてしまう。日本代表に選ばれる選手というのは、所属クラブでは中心選手として活躍する者ばかりだ。試合に出ない状況に慣れているわけでもない。

 だから、試合に出られない選手たちは不満を抱えがちだ。

 そんなときに森保は練習の合間などの時間を使って、選手に話しかける。そして、いつ、どのようなシチュエーションが来れば起用したいのかを丁寧に伝える。丁寧に対話を重ねるから、その時間も長くなる。槙野は言う。

「時間が長いから(他の選手が気になって)、『監督に呼ばれて、どんなことを言われていたの?』と聞いても、教えてくれない選手もいます(笑)。ただ、それくらいに、選手と密なコミュニケーションを図ってくれる方です」

「槙野君を中心に良い雰囲気です」塩谷司の証言

 槙野は今大会の登録メンバーのなかで、年齢は上から数えて4番目にあたる。さらに、彼は先のロシアW杯という世界大会でもプレーしている。そんな経験のある選手だが、初戦と3戦目に先発したものの、それ以外はベンチから試合をうかがっている。フラストレーションをためこんでも不思議ではないが、そんな素振りは少しも見せることがない。

 第3戦で決勝ゴールを決めた塩谷司は、こう話していた。

「槙野君らを中心にすごく良い雰囲気で練習がやれていると思います」

 槙野が率先してそういう雰囲気を作るのは、彼のプロフェッショナリズムの他に、監督が試みる対話の影響もあるはずだ。

 では、具体的にはどのような形で、選手の心の琴線に触れようとしているのか。

酒井宏樹も信頼「森保監督はモチベーションを上げてくれる」

 右サイドバックの不動のレギュラーとして活躍する28歳酒井宏樹の指摘は興味深い。

 昨年の11月のこと。酒井は、このアジアカップタイトルを取るための戦略について監督と話し合ったことがあった。若い選手の力を引き出し、決勝までの7試合でコンディションや調子を大きく落とすことなく戦い抜くためには、どんな工夫をすべきか、などがテーマだった。酒井は、森保のコミュニケーションスタイルについてこう解説する。

「監督は選手を尊重してくれます。自分の意見もあるはずですが、まずは選手の意見を聞いてくれる。その上で『こういう考え方もあるよ』と、新たな選択肢を与えてくれるし、選手のモチベーションを上げてくれるんですよ」

 プロサッカー選手というのは、所属クラブがあるものの、個人事業主であり、長くても数年の契約を結ぶだけの不安定な職業である。さらに、野球のように、個人の活躍がはっきりと数字で表せない部分も大きい。

 試合では鬼気迫る表情でボールを追いかける選手でも、グラウンドの外では不安を抱えていることが少なくない。森保監督の見せる気づかいや、選手の考えや意見を尊重するスタイルは、モチベーションを駆り立てるのかもしれない。

自らエコノミーシートに座った森保監督

 思い出されるのは、昨年9月のこと。札幌で、森保監督が就任してから初めての試合を行なう予定だったのだが、北海道胆振東部地震に襲われて試合は中止になった。

 さらに、その余波で飛行機も欠航が相次いだ。幸いにして、日本代表は、地震の起きた2日後には、次の試合が行なわれる大阪へ向かう飛行機に乗ることができた。ただ、使用する飛行機の都合上、上級クラスシートの数には限りがあった。今大会のメンバーにも選ばれている20歳の堂安律と冨安健洋などの年齢が下の一部の選手たちは、一般の搭乗客とまじってエコノミークラスシートに座ることになった。

 席数が限られているのだから、一部の選手たちがそうなるのは仕方のないことかもしれない。

 ただ……。

 そんななかで、森保監督は自身がチームトップであるという威厳を振りかざすのではなく、一般の乗客に比べて身体の大きい選手たちが窮屈な思いをしないようにと、自ら率先してエコノミークラスに座ることにしたのだ。

 歴代の監督のなかには、選手たちがビジネスクラスで海外遠征に向かう便で、組織のトップとしてさらに上級のファーストクラスに身を預ける者もいた。そもそも、監督が選手よりも上級の席に座るというのは、欧米だけではなく日本でもごく普通に受け入れられるものだ。

 しかし、そんな表層的なことには興味を示さない。相手の気持ちや立場を思いやったうえで、コミュニケーションを取る。それが森保流のマネジメントなのだ。

保監督の最大の強みが見えてきた

 サッカーの監督に求められる仕事は、大まかに以下の4つに分けられる。

1、どのようなフォーメーションで、どんな狙いを持って戦うのかを決める「戦術」
2、衣食住の環境作りから選手の起用法まで、試合や大会を制するための「戦略」
3、選手が少しでも良いパフォーマンスを試合で見せるための「コンディショニング」
4、選手やスタッフが全力を披露するためのモチベーションをあげる「メンタルマネジメント

 現在の日本代表の選手たちの面々から受けるのは、高いモチベーションを持って練習や試合に臨んでいるという事実である。つまり、森保が日本代表の監督として最大の強みとしているのは「メンタルマネジメント」であるように映る。

 1月28日アジアカップ準決勝で対戦するイラン代表はFIFA国際サッカー連盟)の選定するランキングアジアのなかで最も高く、今大会でカタール代表とともに、無失点を続けるチームである。彼らの「戦術」面での強みは、現在の日本代表を上回っているのかもしれない。

 そんな特長と強みの違うチームと対戦する次の試合で、森保監督の「メンタルマネジメント」の真価が問われることになる。

(ミムラユウスケ

アジアカップ初戦トルクメニスタン戦前日記者会見に臨む森保監督とキャプテン吉田麻也 ©AFLO


(出典 news.nicovideo.jp)