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 イタリアサッカーは復興の兆しを見せつつある。ヨーロッパ最高峰の戦い、チャンピオンズリーグでは、最終節までユベントスナポリローマそしてインテルの出場4クラブすべてにベスト16の可能性があった。

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 しかし――。結果的にそこからナポリインテルが零れ落ちた。特にセリエのビッグ3のひとつであるインテルは、その敗退に大きな注目が集まった。(JBpress

取り戻し始めたブーイングの意味

 12月15日セリエAインテルvsウディネーゼ戦。選手が入場をすると、ジュセッペ・メアッツァ(インテルミランホームスタジアム)のスタンドからは拍手ではなくブーイングが聞こえた。6季ぶりに参戦したUEFAチャンピオンズリーグで、グループリーグ敗退を喫した。その直後の試合。

 ファンチームに対し、「そういう」審判を下したのだ。

 11日のグループリーグ第6節。勝てばベスト16突破が決まる試合で、グループ最下位ですでにベスト16の可能性が消滅していたPSVアインフォーフェン相手にドロー。トッテナム・ホットスパーと同勝ち点の8で並んだものの、直接対決の成績で下回ることとなった。勝ちさえすばよかった状況で最下位のチームホームで下せなかったことに、人々は怒りを募らせた。

 ガゼッタ・デッロ・スポルトは「INTER SCEMPIONS (後半の言葉はSCEMO(アホ)とチャンピオンズの合成語)」と罵り、 インテル一般紙コリエレ・デッラ・セーラに掲載された著名ジャーナリストマリオスコンチェルティ記者のコラムでも「どんなフォーメーションを送り込もうが、PSVには勝てると思ったインテルの間違い。そもそも、バルセロナトッテナムに晒した力の差の反映でもある」などと辛辣に斬られていた。さらにインテル指揮官・ルチャーノ・スパレッティには、早くも解任報道が上がっていた。

 とはいえ、サポーターブーイングや、メディアの厳しい声が浴びせられたのは、「名門・インテル」が再興の過程を辿っている証と理解されるべきだ。

 そもそも今回のCL、インテルはもっとも厳しいグループに入っていた。バルセロナトッテナムそしてPSV。いずれもトップリーグの名門と言える。

 加えて、インテル最後のCL参加は6季前の2012-13シーズンであることを考えれば、2位と同じ勝ち点だったいうことだけでもよく頑張ったという評価もできるかもしれない。そして今シーズンリーグ戦でも好調だ。

全盛期から一転、インテルはなぜ凋落したのか

 だからこそ、今回のようなひどい敗退の仕方に、落胆と怒りを隠さなかったファンメディアの声も、インテルが「名門」の姿を取り戻しつつある証左といえるはずだ。ビッグクラブにふさわしい結果が求められる――という。

 しかしここまでの道のりは決して簡単ではなかった。経営難と身売りは、周りが見ている以上に制約を与えており、振り返ってみると、CLに復帰するまでの6年という歳月は掛かるべくして掛かっている印象が強い。

 インテルはマッシモ・モラッティ前会長のもと、1990年代後半から2000年代にかけて金に糸目をつけずスター選手を買いあさり補強を続けていた。そして2009-10シーズンにはセリエA、コッパ・イタリア、そして欧州CLの3冠を獲得に成功する。

 だが、その栄華の一方でクラブ経営は巨額赤字の体質となりシーズンの赤字額は1億ユーロを超過する額にまで達していた。そこからクラブは、長い過渡期(低迷期or「ビッグクラブにふさわしくない時間」)へと突入した。

ファイナンシャル・フェアプレー制度』を打ち立て、クラブに健全経営を促す欧州サッカー連盟UEFA)の会計監査室は、インテルに抜本的な赤字減らしを求めた。そのためインテルは、高年俸選手の売却や契約未更新での放出を強いられ、ついにはモラッティ前会長もクラブの売却を余儀なくされる事態に陥った。

 経営はインドネシア人投資家エリック・トヒルの手に移るが、赤字を減らしつつビッグクラブにふさわしい戦力レベルを保たなければならないというジレンマの中で、地に足をつけた強化もなかなか取れない。興行収入や放映権収入、参戦や勝利ボーナス収入などで大きなメリットのあるCLの参戦を目標に掲げ、即戦力との補強を図る。しかし近視眼的な視野でなされたチームづくりがすぐに目を出すはずはなく、失敗。その度に監督は解任され、チームづくりは一からやり直しになる、というパターンが繰り返された。

 もっともその間の苦労にはそれなりの成果もあった。過渡期の中に加入した選手の中にはチームの柱として成長し、定着したものもいたのだ。ゴールポストには、実力は欧州屈指と評価されるGKサミル・ハンダノビッチが君臨。20歳でサンプドリアから加入したマウロ・イカルディは、ストライカーとして精神的にも充実を見せ自他ともに認める主将になった。経験のある選手が抜け弱点と目されていたDFラインには、アトレティコ・マドリーからミランダが加入。走力の優れたウイングのイバン・ペリシッチ、ムラっ気はあるがテクニック抜群のマルセロ・ブロゾビッチクロアチア代表コンビも定着した。

CLグループリーグ敗退にあった制裁の影響

 そして2017-18シーズンからは、戦術家として世界的にも名高いスパレッティ監督が就任。ミラン・シュクリニアルら若手のブレイクも幸いして、インテルはついにCL出場権を手に入れた。これらの選手層は、すぐに編成できるものではない。つまりCL出場権を得るためのチームを作るには、それなりの年数を要としたということだ。

 しかし今回の結果を見れば、それでもなお、彼らには誤算があったと言えよう。CL参戦にあたり、チームに十分な戦力の上乗せをすることができなかったのだ。そしてその原因は、巨額の赤字経営という過去の呪縛にあった。

 UEFAとの協定により、インテルは罰金や欧州大会における登録選手数制限などのペナルティを受け入れる代わりに、段階的な経営収支の均衡化を認めてもらっていた。それは2016-17シーズンに終わる手はずとなっていたのだが、その基準となる17年6月30日の決算では約2450万ユーロの赤字。

 違反とみなされたインテルUEFAの会計監査室から、CLの選手登録は(本来25人登録できるところを)22人のみという制限を向こう1シーズン言い渡されることになってしまった(制裁は2015シーズンから)。その結果昨夏の移籍市場では、昨季レンタルで活躍したラフィーニャやジョアン・カンセロの完全移籍を断念。メンバーには下部組織出身の選手を登録しなければならないルールになっていたため、トップチームの選手は実質20人に抑えられてしまう。主力級の選手3人の登録を、諦めざるを得なくなったわけだ。

 結果的にそれが、ハンデとなって響いた。近年のCLのハードさを身を以て知っている選手は、もともとインテルには少ない。そこに来て、ローマから移籍した新戦力のラジャ・ナインゴランが故障で長期離脱を強いられた。第1節のトッテナム戦、2節のPSV戦に活躍した新しい中盤の要が使えなくなると、その代わりのできる選手がベンチには残ってはいない。ロシアW杯で準優勝を飾ったクロアチア代表MFイバン・ペリシッチなど、W杯の疲れを残している選手がいても、その代わりに活躍できる選手もベンチにはいない。戦力を制限されて臨んだ彼らに、アウェーでトッテナムの猛攻に耐えて点を奪い、ハードな当たりを展開してきたPSVをねじ伏せる余力はなかった。

 もっとも今シーズンはこれで終了してしまったわけではないし、インテルは再建の歩みを止めてもいない。さらなる成長に向けて、彼らはユベントスの元GMであるジュセッペ・マロッタ氏を『スポーツ部門の代表取締役』に招聘した。スパレッティ監督の去就が早くも騒ぎとなる中、「素晴らしい監督。安心して仕事ができるよう、むしろ支えるのが我々クラブの立場だ」とスパッと明言。中長期的に強化プランを描き、適切なコスト管理をしながらチーム編成のできる幹部は、今のインテルにこそ必要な人物なのかもしれない。

 中国の家電販売ならびにEコマースの大手である蘇寧グループが経営権を獲得した効果もあってか、インテルの昨季の商業収入は若干ながらユベントスを上回ったとの報道もある。ビッグクラブ再建の道のりは、まだまだここからなのである。

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ドローに終わり、16強に進めず落胆するイカルディらインテルナイン。(写真:AP/アフロ)


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