(出典 www.theworldmagazine.jp)



 サッカー日本代表・堂安律の周辺が慌ただしくなってきた。現在オランダ1部・フローニンゲンプレーする堂安の元に、マンチェスター・シティイングランド1部)やボルシア・ドルトムントドイツ1部)といった複数の名門クラブからオファーが届いていると、現地メディアが度々報じているのだ。こういった若い選手を巡る移籍の噂は次々と出ては消える、いわゆる飛ばし記事であるケースも少なくない。だがここ最近の現地報道の多さから考えると、少なくともいくつかのビッグクラブが堂安に興味を持っているのは間違いないようだ。

 昨年6月、19歳の若さでオランダへ渡った堂安は1年目から早くも9ゴールを上げるなどチームの中心選手として活躍。今夏にも移籍の噂は出始めていたのだが、報道がさらに過熱したのは先月16日に行われたキリンチャレンジカップ・日本×ウルグアイ戦の直後からだ。オランダプレーする若手のホープの一人だった堂安は、この試合でいよいよ「現時点ですでにトップレベルで通用し得る」逸材であることを証明してみせたのだ。

◆攻撃よりもむしろ守備で見せつけた高いポテンシャル

 この日のウルグアイ代表はルイス・スアレススペイン1部・FCバルセロナ)ら主力数人を欠いたものの、エディンソン・カバーニフランス1部・パリ・サンジェルマン)をはじめとするビッグネームも来日し、スペインイタリアなどのトップリーグプレーする1.5軍以上のメンバーを揃えている。そんなハイレベルな相手と対峙した中でも堂安のプレーは傑出していた。前半10分に南野のドリブルするスペースを創出する見事なフリーランニングで先制点を誘発すると、後半14分には左足アウトサイドでの鋭い切り返しでアトレティコ・マドリードスペイン1部)の主将ディエゴ・ゴディンの逆を取り、ガラタサライトルコ1部)の守護神フェルナンド・ムスレラからA代表初ゴールを奪取。日本の全4ゴールに絡む活躍で絶大なインパクトを残してみせた。

 試合後、ミックスゾーンに現れた堂安を多くの報道陣が取り囲んだ。案の定、初ゴールなど攻撃面についての質問が多く飛ぶ。しかし堂安は「初ゴールを決められたことは良かった」と認めつつも、「得点に関しては紙に印が付いただけなので」と冷静に回答。本人にとっての本当の収穫は他にあったことを明かした。

「試合前から色んな方に“得点を意識していますか?”と聞かれましたけど、自分としては正直チームが勝つことの方が遥かに重要なので。自分が決めることばかりを意識しすぎることなく、攻守に渡って90分間集中してハードワークし続けられた。今日のレベルの相手に対して“守備も含めてトータルでやれた”というのが一番の収穫です」

 この日の堂安は中盤の右サイドで先発出場した。フローニンゲンでのポジションとは役割が異なるが、普段よりも激しい上下動が求められるポジションで “ボール狩り”を託されたことで堂安は水を得た魚のように躍動した。

 対面の相手に猛然とプレスを仕掛けるだけでなく、前半34分にはなんと自陣ペナルティエリア付近まで戻り、相手FWと1対1になっていた右SB酒井宏樹をフォロー。ドリブルで中に交わそうとした相手からあっさりボールを奪ってみせた。また、逆サイドボールが出た際にはピッチ中央付近まで絞りスペースを消すなど、攻撃的な選手でありながら守備でも献身的な姿勢を見せ、1人で驚異的な範囲をカバーした。

 日本の得点シーンを振り返ってみても、2点目の大迫のゴールはドリブルで仕掛けた堂安が一度は失いかけたボールを自ら奪い返したところから始まっており、3点目(堂安)、4点目(南野)のゴールも堂安の高い位置でのインターセプトがきっかけだった。チームの4得点中、実に3点が堂安のボール奪取から始まっていたのだ。結局最後までその運動量が落ちることはなく、90分間に渡り圧巻のパフォーマンスを披露してみせた。

◆現実味を帯びる名門クラブ移籍

 この日の堂安の活躍を的確に表現するなら「守備でやるべきことをやった上で全得点にも絡んだ」となるだろう。この「守備をした上で」という部分が非常に重要で、最も評価されるべきポイントだ。10数年前と比べ大きな進化を遂げた現代のフットボールにおいては、例え攻撃的なポジションの選手であっても強度の高い守備をすることがマストだ。守備が免除されるのは攻撃で超人的な才能を持った選手だけであり、現在トップレベルにおいてそれが許されるのはリオネル・メッシクリスティアーノ・ロナウドら数人のみだ。豊富な運動量でしっかりと強度の高い守備をし続け、その上で攻撃でも得点に直結する仕事をする。トップレベルの選手が揃うウルグアイ相手にそれが完璧にできてしまったということはつまり、堂安がすでにワールドクラスに限りなく近いレベルにまで到達していることを意味するのだ。

「たかが親善試合で活躍したくらいで大袈裟な」と思われる方もいるだろう。日本のホームで行われた試合である上に、来年1月にアジアカップを控える日本と比べ、ウルグアイのモチベーションがそこまで高くなかったのではないかと推測する意見もある。だが、日本と対戦する4日前に韓国に1-2で敗れていたウルグアイとしては、「格下のアジアの国に連敗して帰るわけにはいかない」という危機感は間違いなくあったはずだし、立ち上がり5分間の激しいプレッシングを見れば、あの日のウルグアイが紛れもない本気モードだったことは明らかだ。親善試合とはいえある程度以上強度の高い試合だったことは明白であり、その中で攻守に渡りあれほどのプレーを見せてしまっては、強豪クラブが本気で獲得に乗り出しても何ら不思議なことではない。直後に移籍報道が過熱したのもある意味当然なのだ。

 堂安はこの分で行けばこの冬か遅くとも来年の夏にはオランダを後にすることになるだろう。数年後、日本代表の中心選手となった堂安のキャリアを振り返る際に、「あのウルグアイ戦が名門移籍のきっかけとなった」と言われる可能性は、極めて高い。

取材・文/福田 悠 撮影/難波雄史(本誌)



(出典 news.nicovideo.jp)