自身2度のW杯を経験し、現在川崎フロンターレで活躍する大久保嘉人と、W杯取材経験豊富なスポーツライターの増島みどり氏。ふたりが知るW杯の舞台裏、そしてロシアW杯を戦う日本代表に期待することとは――。1998年フランスW杯に出場した選手、スタッフにあらためて取材した増島氏の新刊『日本代表を、生きる。』の出版を記念して行われた、トークイベントの模様をお届けします。
増島みどり 実は本日(6月9日)は大久保選手の36歳の誕生日なんですが、自分が登場しない本のイベントにゲストとしてお越しいただきました(笑)
本当にありがとうございます。
大久保嘉人 とんでもないです。こちらこそ、本にはレジェンドたちが登場しているなかで僕なんかでいいのかなって思っています。
増島 初めて嘉人選手にお会いしたのはセレッソ大阪に入団したころだったと思います。とにかく“ヤンチャ”な印象でした。覚えている?
大久保 覚えています覚えています。ヤバいですね。恥ずかしい。
増島 今回の本は1997年のアジア最終予選ジョホールバルから翌98年のW杯本戦までについて、当時の選手、監督、関係者に20年後の現在再度取材したものなのですが、嘉人選手にとっても彼らは大先輩というよりもレジェンドという存在ですか。
大久保 もちろんですね。当時僕は国見中学3年で、下宿でジョホールバルのイラン戦をテレビ観戦していました。W杯の出場が決まった瞬間は叫びながら仲間と走り回りましたね。テレビの向こうで岡野さん(岡野雅行選手)が走っていたので、真似していました。
本戦のアルゼンチン戦のときは国見高校1年で、鹿児島に遠征していました。その日の練習試合の前に監督から「負けたらW杯は見せない」と言われて、もう死ぬ気で勝ちにいきました(笑)。
増島 無事見ることはできたの?
大久保 見れました。そのときは本当に一サッカーファン、一日本人として純粋に応援していましたね。もうただただ日本頑張れ!という思いが込み上げていた。
憧れの森島さん、第一印象は「ちっさ!」増島 まだ日本がW杯に出場する前の当時、何を夢にサッカーをしていました? 日本代表やW杯出場は意識していましたか?
大久保 プロ選手になりたいという目標はありましたが、代表やW杯はまったく考えていなかった。確かにW杯出場が決まったときにプレイしてみたいとは思いましたが、すぐに絶対に無理だと諦めていました。
増島 本著ではタイトルを『日本代表になる』とか『日本代表に選ばれる』ではなく、『日本代表を、生きる。』と付けました。嘉人選手にとってこのなかで取り上げた選手のなかで特に印象にあるのはどなたですか?
大久保 まずは森島さん(森島寛晃選手)ですね。当時から憧れがあって、セレッソ大阪に入ったのは一緒にプレイしたかったからです。
増島 初めてお会いした時は感動というか、感慨深いものだった?
大久保 うーん。僕はテレビでしか見たことがなかったので、第一印象は「ちっさ!」と思いました(笑)。俺とあんまり身長が変わらない、俺もこんな選手になれるかもって感じましたね。
増島 森島選手は背も低くて腰も低いで有名ですね。とても丁寧でやさしい方ですがチームメイトの嘉人選手から見てもそうでしたか?
大久保 そうですね。普段はとてもやさしかったです。ただ、練習のときは一番汚かった(笑)。負けず嫌いなんですよ。ボールが取られたらファールしてでも奪い返す、どこまででも走って追いかける、そういう感じです。僕は、いいなと思ったプレイはすぐに真似をしました。イメージだけでは忘れてしまうんです。とにかく身体に覚えさせないと。
憧れもあったし、それを自分のものにしたかった。同じように身長が低くても果敢にプレイする森島さんは等身大の目標だったかもしれない。
代表13 試合ノーゴールの記憶増島 当時、森島選手は日本では非常に新しいタイプのフットボールマンでした。とても小柄で、むしろ華奢といえるような体型でしたがとにかく走る。ものすごい運動量をこなす選手でした。いまはこうですけど(笑、お腹の前で弧を描くジェスチャー)。
嘉人選手は、2002年の日韓W杯のあと、2003年に日本代表に初めて選ばれましたが、当時はどんな気持ちでしたか。
大久保 嬉しすぎて、その気持ちを誰にぶつけていいかわからなかった。とりあえず父親に電話したのですが、父はすごく冷静で。「これからだぞ」なんて逆に熱を冷まさせられましたね(笑)。
増島 嘉人選手を起用したのはジーコ監督でしたね。ジーコの監督としてのひとつの価値観は「一度選んだ代表を絶対に落とさない」というものでした。逆にいえば、それほど代表の選抜を吟味していた。そんななかで嘉人選手が選ばれました。ところが嘉人選手は負の金字塔ともいえる、代表13試合ノーゴール(2003年)という記録をつくってしまうんですね。
大久保 今だったら焦りますね(笑)。でも当時は焦りや不安はあまり感じていなかった。代表初ゴールはパラグアイ戦だったかな。でもそれオフサイドになるんです。そこから地獄の13試合。
ジーコからかけられた言葉は「顔をあげろ」増島 そんな状態をジーコは監督として記者に責められるわけです。当然世論も嘉人選手の起用を疑問視していた。ですが、ジーコは頑なに嘉人選手を使い続けました。彼にどんな意図があったかはわかりませんが、あとになって思うと監督自身も自分の過ちを認めたくなかったのかなと思います(笑)。
ほかにも前半18分で退場したこともありましたね。がっくりと落ち込んでベンチに戻る姿が印象的でした。全身から謝罪のオーラが漂っていた。そこでジーコに声をかけられるのですが、何を言われたか覚えていますか。
大久保 それが覚えていないんですよ(笑)。頭のなかが真っ白でとにかく優しくハグしてくれたことだけは覚えている。
増島 あの時、落ち込む嘉人選手の顎をくっと押さえて、ジーコがかけた言葉は「顔をあげろ」。優しく声をかけたあとのジーコは鬼の形相で、ピッチに残る選手に向かって「1・5倍走れ!」と活を入れます。まだ前半17分ですからね、1人減ったとはいえ無茶な命令です。そんな嘉人選手にとって日本代表とはどんな場所でしたか。
先輩から言われたことは全部「はい!」大久保 まずひとつは知り合いが誰もいない(笑)。周りは先輩ばかりだし、そもそもヒデさん(中田英寿選手)、ゴンさん(中山雅史選手)は対戦相手としては知っているけど、話したこともない。テレビで見るスーパースターと変わらないですよ。
だけど、みんな温かく迎えてくれた。特にゴンさんなんかは若手をいじるの大好きですからね(笑)。
ただ、練習に余裕はまったくなかった。とにかく死に物狂いでついていくことが精一杯だった。もうね、先輩から言われたことは全部「はい!」ですよ(笑)
増島 それは多くの選手が本著のなかでも語っています。たとえば名波さん(名波浩選手)はカズさん(三浦知良選手)や井原さん(井原正巳選手)についていくことに必死だったそうです。ものすごい重圧のなかで、それでもチームにいたいという気持ちが強かった。
大久保 すごくわかります。そもそも練習が楽しいんですよ。苦しいしキツいけど楽しい。やっぱり強い選手に囲まれているっていう環境は非常に大きいです。
僕は代表では、伸さん(小野伸二選手)と一緒でしたが、ベルベットパスなんて呼ばれているパスを受けるのは本当に心地いい。トラップしやすいんです。もう自分のもとにボールが来た瞬間にゴールが決まると確信する。やみつきになりますね。いつまでも味わいたい感覚です。
何をやってもシュートが入らない時に考えていたこと増島 フォワードというポジションの選手に、我々は非常に自己主張が強い印象を持っていますよね。得点を決める要なわけですから。フォワードに対する思い入れなどはどういったものがありますか。
大久保 まずは楽しいということ。シュートって決まるときはあっさり決まるし、バイオリズムのように、今のコンディションなら、もちろんメンタルも含めて、絶対決まるからどんどんボールを回してくれってなる。一方で決められないときは本当に決められない。何をやってもシュートが入らない。ただ、じゃあどうしたら決まるようになるか、それを考えるのもまた楽しいんです。
増島 周囲がスランプだって騒ぐほどネガティブにはなっていない?
大久保 むしろそういう時こそ燃えますよね。なにしろそうやって考え抜いて決めたゴールは頭のなかが真っ白になるような快感がある。シュートを撃つこと自体は恐怖でしかない。失敗したイメージがつきまとうんです。失敗するほうが多いから。それでも99回オフサイドでも、1回成功するならチャレンジしたい。その1回で天国なんです。
増島 今年のロシアW杯は、これから本戦がはじまるわけですが、現状非常に厳しい状況になっているといえます。メディアからの批判も強いです。嘉人選手から見てどうですか。
南アW杯のときはもっとひどかった大久保 たとえば、2010年の南アW杯のときはもっとひどかった。チームとして何もなかったんです。攻めたいのか、守りたいのか、繋ぎたいのか、チームがどの方向を目指すのか誰もイメージできていない状態でした。一方で本当に追い詰められていたからこそ、みんな開き直っていた。
増島 南アW杯の本戦前のテストマッチではイングランド代表、コートジボワール代表とおこなうんですが、相当格上でした。当然勝てない。その後、現地に入り、本当に最後のテストマッチ、もうほとんど練習試合なのですが、そこでジンバブエと30分を3本おこなった。当時の世界ランクで110位代、相当格下でした。本来ならば圧勝していいイメージをつくりたいのに、結果は0-0の引き分けです。我々メディアは、なんだあの試合は! と批判した記事を連発します。
試合直後には嘉人選手に取材しました。そこで「今日の試合で自信が湧きました」と答えるんです。もう何を言っているのだと思いましたよ。非常に違和感があった。
大久保 覚えていますね。あの試合の直前に選手でミーティングがあったんです。ディフェンスの選手は守りたい、僕たちは攻めたい、もう後ろと前のケンカですよ。点が取れていないから守るしかない。守備は全員で、攻めは僕と圭佑(本田圭佑選手)、松井さん(松井大輔選手)の3人で前に出ることを決めた。それを岡田監督に伝えました。
もうこれしかない。こうじゃないと勝てないと思いました。W杯って極端にいうと勝てればいい。いい試合をしなくてもいいんです。とにかく勝ち点をもぎ取りたい。そこで初めてチームがひとつになった。ジンバブエ戦では決められなかったけど、本戦では絶対うまくいく自信があったんです。
増島 我々メディアも日本中もその言葉の意味を本戦の試合結果として4日後に知るわけです。このとき非常に印象的だったのは、たとえチームに密着するメディアであっても、そこで何が起こっているのか、本当の意味でチームがどういう状況なのかはわからない。伝えている情報は氷山の一角でしかないということなんです。
窮地に追い込まれてる代表が好き大久保 現在の日本代表も同様に追い詰められている。だからこそ何か考えているはずです。
増島 確かに強いチーム、ヒロイックな代表は非常に魅力的です。ですが私は誤解を恐れずにいえば混乱している、窮地に追い込まれている代表が非常に好きなんです。そこから立ち直ることを、たとえわずかな希望的観測だとしても、期待してしまうからでしょう。
大久保 すごくわかります。実際のプレイヤーもワクワクしてると思いますよ。W杯は4年に1度のサッカーの試験のようなものです。その解答はあまりに困難で、長い歴史のなかで8つの代表しか優勝していない。それはどのチームに属していても同じで、形は違うけど、覚悟をもっている。
増島 多くの人は熱い声援とともに自分自身を選手やチームに投影している。だからこそ厳しい声も多くなります。それは圧倒的な強者に立ち向かっていく勇気や覚悟が自分自身の日常ではなかなか持ち得ないからでしょう。だからこそ困難を乗り越えようとする代表に期待しているのだと思います。今、多くの日本人は代表に対して諦めのようなネガティブな気持ちが強い。しかし私を含めて、メディアも国民も、すでに夢中になっているんですね。だからこそ本戦の一勝は非常に重要です。批判的な声が一斉に裏返るから(笑)。
大久保 その通りだと思います。おそらく99%の不安しかないと思う。だけど1%の自信にかけてその不安を克服してほしいと思います。
構成/渡邉哲平
(「文春オンライン」編集部)
(出典 news.nicovideo.jp)
大久保嘉人が語る「日本代表とW杯、難しくて楽しい場所の舞台裏」 | 文春 ... - 文春オンライン 自身2度のW杯を経験し、現在川崎フロンターレで活躍する大久保嘉人と、W杯取材経験豊富なスポーツライターの増島みどり氏。ふたりが知るW杯の舞台裏、そしてロシアW ... (出典:文春オンライン) |
ひろそうた
@hirosouai
@gurumeou まぁ、技術ですよね。サッカー選手が倒れてファールを取りに行くのもね。どちらも無理に有利な判定に持ってく技術。どっちも見栄えは悪いですね。サッカー選手は転がりすぎと言うのも走ってる所を足引っ掛けられたら痛くな… https://t.co/TggRVV4XZp
FCフジロック
@tassyman
齋藤学の長い言い訳を読み大久保嘉人の方がよほどましと不覚にも思ってしまった。嫌われる勇気がない齋藤学覚悟ができてる大久保嘉人って感じ?嫌われる勇気がないヤツは嫌われるってほんとだな#fctokyo #frontale #fmarinos
かのう
@messi1064313638
というか齋藤学と大久保嘉人を控えに置いておきながらも15節を終えてサンフレッチェ広島より順位が下の川崎フロンターレ、やばすぎる。
サッカーから人生を学ぶ!
@soccer7fashion
理想のゴールがあるんじゃなくてその時その時でひらめくイメージにまかせている。大久保嘉人 https://t.co/7y0Q0ACmcJ
黒ウィズサッカー問題集
@wiz_soccer
自作・普通 2013年のJ1得点王であり、日本代表の大久保嘉人選手の所属するチームは?1.ヴィッセル神戸 2.セレッソ大阪 3.川崎フロンターレ 4.鹿島アントラーズ正解:326得点を挙げて、見事得点王に輝きました。おそらく大久保選手関連で1問くらいは作られるはずです。
協力多答リレークイズbot
@kyouryoku_tato
次のうちドイツのサッカークラブに所属したことがある選手を1人1つ選びなさい ○長谷部誠、大久保嘉人、小野伸二、高原直泰 ×三浦知良、中村俊輔、藤田俊哉、名波浩
今日が誕生日の有名人&何の日
@birth_whatday
6月9日【ロックの日】誕生花【スイートピー】誕生石【バロックパール】柳田邦男、青木雄二、渋谷陽一、マイケル・J・フォックス、ジョニー・デップ、薬師丸ひろ子、武田双雲、内田恭子、国仲涼子、植田佳奈、熊切あさ美、ヴィック・チョウ、ナタリー・ポートマン、大久保嘉人、栗城史多、水谷隼
ひろそうた
@hirosouai
大久保嘉人ならもっと鬼気迫る演技を見せてくれるな。まだ羞恥心が残っている。共通して言えることは「無茶苦茶ダサい」って事だな。 https://t.co/qAFwZXMMTq
ムン🇬🇭タリ
@morigeoooooooo
ポルトガルが他の列強国に比べて選手の質が低いのにあれだけ強い理由って、ロナウドのとてつもなく貪欲な勝利への執着心から放たれる強烈なリーダーシップとカリスマ性が周りの選手を動かしてるからだよね。大久保嘉人もそうなって欲しかったんだけどな〜
朝日新聞教育班
@asahi_school
(キミとどたばた)プロサッカー選手・大久保嘉人さん:上 息子4人、大騒ぎも幸せ:朝日新聞デジタル https://t.co/W2ExFN2eY3
イケメンアスリートbot
@ikemen_athlete_
香川真司、大久保嘉人/サッカー/ボルシア・ドルトムント(ドイツ)、川崎フロンターレ#Dortmund #frontale #イケメン https://t.co/EMnYs2dnlK
にっきー
@nikki2616
なんていうか…大久保嘉人にはまだ過去を語る段階に来てほしくないんだよな…憲剛みたいにばりばりスタメンでやってる中でのテレビ出演ならまだしも小林悠が怪我でいない中でのベンチ外をもっと去年の東京の時みたいに態度で情けなさを示して欲し… https://t.co/bfmY5ZRBZ5
由貴子
@spiral2380
大久保嘉人×増島みどり「日本代表とW杯、難しくて楽しい場所の舞台裏」(文春オンライン) https://t.co/ilpFRvfq75
るか(20)
@ITS_A_SH0W_TIME
失って気づくのが日本代表失って思い出すのがトーキョーボールを失っても取り返せないのが吉本名誉を失っても現役でいるのが大久保嘉人
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